日本と日本人にとって,科学ってなんなんだろう? 日本は西洋の科学を導入して近代化に成功し,さまざまな失敗も繰り返しつつ,発展してきて,結構いい線まできた。だけど今,日本の科学技術は急速にその勢いを失いつつある。大きな曲がり角を迎えているようだ。今後どうしたらよいかを考えるために,日本の科学の経緯と特徴を冷静に把握しておく必要があるはずだ。 こういう話題のときによく聞かれるのが,「日本には科学が文化として根付いていない」という言説だ。合理性より人間関係や既得権益がものをいう社会なんだ,と。 実はこのような批判は,ずいぶんと前からなされている。たとえば,エルヴィン・フォン・ベルツ。明治期に西洋医学の導入で主導的な役割を果たしたドイツの医師で,1876(明治9)年から1902(明治35)年まで東京帝国大学医学部の教授を務めた注1)。その彼が,自身の日本在留25年を記念した式典での講演で,日本人は