確かあれは夏木マリさんの舞台を番組スタッフと観に行った帰り道だった。 「カッコいい女の人、というと誰を思い浮かべます?」 若いスタッフに訊かれた。たぶん彼女は夏木さんのパフォーマンスに圧倒されていたのだろう。質問のかたちをとってはいるけれど、言外に「夏木さんほどカッコいい女性はいないですよね」というニュアンスが込められていた。 もちろん夏木マリは文句なしにカッコいい。でもその時ぼくはあえて別の人物の名前をあげた。すると後輩からは「え?誰ですかその人」という反応が返ってきた。若い彼女が知らないのは無理もない。その人がこの世を去ってもう四半世紀が経つのだから。その人の名は「森瑤子」。1978年に作家デビューすると瞬く間に人気作家への階段を駆け上がり、1993年に胃癌のため52歳で亡くなった。彼女はバブルに沸く80年代を全力で駆け抜けた作家だった。 『森瑤子の帽子』は、時代のアイコンだった作家の