ブルーノ・ラトゥールの知識人としての人生には3つの面があった。まず、「科学」というものの新たな理解を展開した経験論的社会学者であった。そして、人類の根源的な問いを考え続けた哲学者でもあった。さらに近年は、「新気候体制」という概念を打ち出して気候変動を哲学的に理解しようと試み、知性で世界を救わんとしていた。 ワイン生産者の家に生まれたラトゥールは、大学で哲学と人類学を学んだ。そしてアフリカで、民族学的な研究を始めた。その経験から、彼のなかで革命的な発想が生まれる。この民族学的手法を、西洋社会の最も近代的な環境に適用できないだろうか? と考えたのだ。ラトゥールはカリフォルニアに渡り、科学的知識が生まれる過程について研究した『ラボラトリー・ライフ 科学的事実の構築』を、社会学者のスティーヴ・ウールガーと著した。 彼の提唱した「アクターネットワーク理論」の中心となるテーゼは、以下のようなものだ。