荒井が描く多くの絵本にはストーリーらしいストーリーがない。そして、まるで子供が落書きしたような絵がちりばめられている。だが、大人が首をひねるようなこの不思議な世界が、子供達の心をとらえて離さない。 荒井は、「子供の心に届くのは、大人が作るような巧妙なストーリーや上手にかかれた美しい絵ではない」と考えている。だからいつも、「自分の中のおとなを捨てる」ことを心がける。積み上げた経験や常識に縛られるのではなく、奔放で自由な「子供の自分」を引っ張り出して描くことこそ、最も大事にしている流儀だ。 荒井も以前は、自由に「子供の自分」を引き出せる奇特な人間だったわけではない。誰しもが自分の中に「子供」を持つ。しかし年をとると、いやがおうにも蓄積される常識や経験が、それを覆い隠してしまう。 荒井は、定期的に「子供の自分」を刺激し、揺り動かす機会を持っている。それが子供達と何かを作る「ワークショップ」だ