いま起こっている変化を「アメリカの没落」という向きが多いが、軍事的にはアメリカの優位は圧倒的だし、基軸通貨としてのドルの地位もゆらいでいない。むしろ「アメリカ以外の国の台頭」だ、というのが著者の見立てである。これが「文明の衝突」をもたらすかというと、中国もインドも欧米文化に同化することによって経済発展を遂げているので、あまり大きな変化は起きないだろう。それは19世紀のイギリスから20世紀のアメリカに中軸国が移動したぐらいの、西欧文明圏の中での重心の移動にとどまるのではないか。 「世界が不安定になっている」というのも嘘である。2000年代に起きた国際紛争の数は80年代より60%減少しており、特に冷戦の終結によって大規模な戦争はほとんどなくなった。「テロとの闘い」などというのは軍需産業を延命するためのスローガンで、アルカイダのテロによる死者は、200万人の命を奪ったポル・ポトや100万人が死