<『鬼滅の刃 無限列車編』を観に行くのは、原作漫画を全部読んでからでも遅くない。万難を排しても今観るべき時事的アニメ作品は他にある> 「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」──こう言ったのは、江戸後期の長崎・平戸藩九代目藩主、松浦静山であった(『甲子夜話』=かっしやわ)。つまり失敗には必ず原因があるが、成功には理外の運や天賦が作用するという事である。 今次のいわゆる『鬼滅の刃』ブームが、まさにこの言葉で形容するのにふさわしいと言えよう。同劇場版『鬼滅の刃 無限列車編』は11月末現在、日本歴代興行収入3位に躍り出た。なぜこれほどまでに流行っているのか。したり顔で解説する人間を私は信用しない。ましてアニメ評論家でも何でもないものが、それを言うのは殊更頂けない。『鬼滅』ブームは、正しく「不思議の勝ち」の部類であり、その背景を探るという試みはすべて後付けの理屈である。 運否天賦が左右し