実験的な色彩が強く、読み流すと「破綻した物語」に見える――のだが… ただの回想録と思いきや、語りの技巧にヤられる。最初は、少年時代の思い出を、時間の流れに沿って描いてゆく。死の恐怖、夢と死、母への思慕、父の紫煙、ユリアとの初恋…読み手は、自分の幼い頃と重ねながら甘酸っぱさを共有するかもしれない。 次にそれをベースにして、謎めいた存在だった「父」の探求を始める。いずれも「いま」「この場所」で「読み手に向かって」、「僕」が語る形式をとっているのだが、それぞれの要素がよじれてくる。ここから、まるで別物に見えてくる。 記憶よりも連想に寄りかかり、筋は論理矛盾を起こし、話者は「不確かな語り手」と化す。展開は絶えず断ち切られ、それらをつなぐ相関は、五感――視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚によって、身体的な表現へ触発される。モンタージュ、フラッシュバック、フェイドアウトなどの映画手法が応用され、視覚効果が強