小野清一郎博士の戦前の古い時期の研究業績の中に、「不当拘禁の問題」という論稿があることを発見しました(法律時報2巻11号、昭和5年)。「日本法理」に至る過程の中にあっても、いまだリベラルな時代状況下では、東京帝国大学の教授が当時の刑事司法手続、とくに警察権の濫用をきびしく戒めた論稿が存在していたことを改めて想起しておく必要があるでしょう。 この論文で、小野博士は、近時(昭和5年当時)労働運動ないし共産主義運動に関連する検挙において警察権が濫用され、不当拘禁、さては××(伏字)に近い暴行・陵虐の風評を聞くことは憤懣に堪えないところであるといわれ、警察署長による「違警罪即決例」と行政執行法による(公安を害する虞ある者に対する)「検束処分」の濫用をきびしく批判された後、とくに以下の3点を指摘されていました。 第1は、捜査機関が行う「取調べ」に関してですが、被疑者がその取調べに任意に出頭し、任意に