登校すると同級生の男が下駄箱の前で立ちすくんでいた。 「これ、」 と彼が指差す下駄箱の中には、恵方巻きが1本、ぬたーっと横たわっていた。 「俺、こんなこと初めてなんだよ……どうしよう」 「食べればいいんじゃない?」 彼はその場で、恵方を向いて恵方巻きを嬉しそうにもぐもぐ頬張り始めた。 教室に入ると女子生徒から渡されたらしい恵方巻きをもくもくと食べる男子生徒たちが散見された。今年、2014年の恵方は東南東のさらにやや東寄り、教室では後ろを向くことになる。多いと一人で4、5本食べる者もいる。朝食を抜かなければその量は食べられない。 俺にとって前日の夜に交わす母親との会話は煩わしく、つらい。 「ねえ……明日の朝ごはんは?」 「いる」 そう答えたにもかかわらず、茶碗に盛られた飯の量は普段より少なくおかずの品数も少ない。これでは昼までに腹がすく。しかし茶碗に飯を足すこともせず、黙って食べ終え、家を出