不可能物体とは,一見すると立体が描かれているように感じるが実は立体を表していない絵を見たとき,心の中に人が思い浮かべる“立体の印象”のことである.錯視図形,変則図形,だまし絵などとよばれることもある.オランダの画家エッシャーがその作品の中で好んで用いた題材としても有名である.本書ではこの不可能物体を描いた絵を数理的な立場から眺める.したがって,心理学的側面や芸術的側面は扱わない.不可能物体が不可能である数理的な理由を明らかにし,不可能物体を分類・体系化することが本書の目的である. 不可能物体という題材をこのような立場から眺め,そしてまとめてみる気になったのは次のような事情による.筆者は1970年代の中頃に国立の研究所の一員として,当時通産省が推進していたパターン情報処理システム大型研究プロジェクトに参加し,物体認識の研究を行った.そこで2次元平面に描かれた図から3次元の立体構造を自動抽出