津田(ヲタリーマン)は靴についての悩みを計二つ抱えていた。一つは靴全般にかかわる悩みで、もう一つは、彼が所有するある靴にだけかかわる悩みだ。 彼が観察出来た限りにおいて、全ての靴は左右対称に作られていた。一度だけ、彼は自分の靴が左右で全く異なる形状をとっているのに気付いたのだが、単に、朝、誤って異なる革靴を左右の足に履いたまま家を出てしまったからだった。その日は一日なるべく靴が人目に触れないよう振る舞わなければならなかったので、以降はより一層靴の左右対称性に気を遣うようになった。十分に時間をかけさえすれば、左右の足に同じ靴を選んで履くのは難しいことではなかった。それは、靴が左右対称に作られていて、三足程度の候補からであれば、簡単にどれとどれがペアとなるのかを指摘出来るからだ。実は、彼の足が左右対称であることも、靴の左右対称さを合理的であるよう見せかけるのに一役買っていた。このような経緯から