一 南満鉄道会社(なんまんてつどうかいしゃ)っていったい何をするんだいと真面目(まじめ)に聞いたら、満鉄(まんてつ)の総裁も少し呆(あき)れた顔をして、御前(おまえ)もよっぽど馬鹿だなあと云った。是公(ぜこう)から馬鹿と云われたって怖(こわ)くも何ともないから黙っていた。すると是公が笑いながら、どうだ今度(こんだ)いっしょに連れてってやろうかと云い出した。是公の連れて行ってやろうかは久しいもので、二十四五年前(ぜん)、神田の小川亭(おがわてい)の前にあった怪しげな天麩羅屋(てんぷらや)へ連れて行ってくれた以来時々連れてってやろうかを余に向って繰返す癖がある。そのくせいまだ大した所へ連れて行ってくれた試(ためし)がない。「今度(こんだ)いっしょに連れてってやろうか」もおおかたその格(かく)だろうと思ってただうんと答えておいた。この気のない返事を聞いた総裁は、まあ海外における日本人がどんな事を