(児美川 孝一郎:教育学者、法政大学キャリアデザイン学部教授) 大学教育をめぐる議論において、最近ではめっきり聞かなくなってしまった言葉に、「教養」あるいは「教養教育」がある。日本の大学教育にとって、教養とはいったい何だったのか。大学における教養教育は、今どんな状況にあり、今後どうなっていくのか。このことについて、考えてみたい。 なぜ、いまさら教養教育なのか。 近年の大学改革のめざす方向は、「社会的ニーズ」という装飾を借りつつも、結局のところは、産業界の要望に見合うような人材の育成を、いかに効率的・効果的に進めていくかといった点に収斂しがちに見える。そうした状況だからこそ、今あらためて、日本の大学制度の「原点」に存在したはずの教養教育について、その意義や可能性、あるいは限界を確かめておくことは、けっして無駄な作業にはならないと思うからである。 新制大学の誕生 ここでの議論に必要な限りで、ご