1 立証責任の分配に関連して,「『消極的事実の証明』(ないことの証明)は,『悪魔の証明』(probatio diabolica)である。」といわれることがある。法律家等の間でも昭和40年以前から使われている用法であり*1,諸外国の法律家の間でも,同様の用法があるようである*2。 しかし,沿革的にみれば,「悪魔の証明」と「消極的事実の証明」とは全く関係のない概念である。最近になって,両者を結びつける用法があることは前記のとおりであるが,その点を踏まえても, (1)「悪魔の証明」という比喩は,「消極的事実の証明」の場合以外にも用いられるものであること,(2)「消極的事実の証明」であるからといって,必ずしも「悪魔の証明」になるわけではないとする見解があること,(3)「消極的事実の証明」であるからといって,訴訟法上,当然に立証責任の負担を免れるわけでもないことは銘記しておくべきであろう。 2 元来