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ブックマーク / note.com/knightofodessa (23)

  • 【ネタバレ】キリル・セレブレンニコフ『チャイコフスキーの妻』"天才はそんなことするはずない"という盲信について|KnightsofOdessa

    大傑作。2022年カンヌ映画祭コンペ部門選出作品。キリル・セレブレンニコフ長編最新作、時代劇は初か?チャイコフスキー夫を描いた先行作品であるケン・ラッセル『恋人たちの曲 / 悲愴』は未見。1893年のサンクトペテルブルク、当代随一の作曲家ピョートル・チャイコフスキーの葬儀がしめやかに執り行われていた。そこにやってきたのが"チャイコフスキーの"こと主人公アントニーナである。すると、横たわっていたチャイコフスキーはのっそりと起き上がり、彼女に向けてこう言い放つ。なぜあの女がいる?と。物語はそこから1872年まで遡り、アントニーナがチャイコフスキーに出会って狂気的な恋慕を抱き続ける様を描いていく。彼女の感情は天気とリンクしており、特にチャイコフスキーを想っている以下五つのシーンでは、基的に寒々しい室内が(或いは灰色の空間が)、光線まで見えそうなほど暖かな光に満たされている(他にもあったかも

    【ネタバレ】キリル・セレブレンニコフ『チャイコフスキーの妻』"天才はそんなことするはずない"という盲信について|KnightsofOdessa
    okbc99
    okbc99 2024/09/08
    “所謂セレブレンニコフ・マジックと私が勝手に呼んでいる、長回しの中で大幅な時間経過のある舞台的な場面転換”
  • フェデ・アルバレス『エイリアン:ロムルス』重力=地面/落下/下降から逃れる戦いの記録|KnightsofOdessa

    大傑作。フェデ・アルバレス長編四作目。ケイリー・スピーニーが順調に出世してるのとても嬉しい。太陽の見えない採掘惑星で、穏やかな生活を求める若い入植者たちが突然やって来た放棄された宇宙ステーションに忍び込む話。とにかく上昇/下降が強調されているのは、自由になるためには重力から逃れる必要があり、それは落下/下降から逃れることと等しいからだろう。入植者たちは重力によって地面に捕らえられ、主人公レイン("雨"もまた地面に降ってくるものだ)はその度に上昇を続ける。序盤でエイリアンの死体が頭上に配置され、その下に深く穴が穿たれている構図が登場するのは、やはり重力を逃れて上昇するためにはコイツを倒さねばならないという暗示としてとても上手く機能している(エイリアンはだいたい人間の上にいるので)。だからこそ無重力での戦いは人間とエイリアンを対等存在として正面からガチンコ勝負できる舞台なのだ。とはいえ、あまり

    フェデ・アルバレス『エイリアン:ロムルス』重力=地面/落下/下降から逃れる戦いの記録|KnightsofOdessa
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    okbc99 2024/09/08
  • モハマド・ラスロフ『Iron Island』イラン、沈みゆく船、沈みゆく国家|KnightsofOdessa

    傑作。モハマド・ラスロフ長編二作目。ペルシャ湾に浮かぶ朽ちかけた石油タンカーで暮らす不法占拠者たちの物語。タンカーはネマト船長(ネモ船長への目配せか?)と呼ばれる老人によって支配されている。彼は毎日のように船内を巡回して住民たちの悩みを聞き、女たちの内職や男たちの船解体を指揮し、外部との交渉も行い、なんなら娘の結婚まで斡旋し、子供たちへの教育も整備するというように、表向きは"慈悲深き"指導者である。一方で、自分の定めたルールに従わない者には容赦しないという一面もある。つまり、ルールを破らなければ彼は優しき父親的存在のままであり、船で暮らす人々は彼を信頼して生活している。そんな奇妙なまでに自給自足が成立しているが、実は少しずつ沈んでいる船というのは、現状維持で少しずつ死んでいく国家そのもののようだ。船には個性的なメンバーがたくさんいる。ずっと太陽の方向を見つめて何かを探しているサデグおじさん

    モハマド・ラスロフ『Iron Island』イラン、沈みゆく船、沈みゆく国家|KnightsofOdessa
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    okbc99 2024/06/06
  • 【ネタバレ】アンドリュー・ヘイ『異人たち』You Were Always on My Mind And Always Will Be|KnightsofOdessa

    【ネタバレ】アンドリュー・ヘイ『異人たち』You Were Always on My Mind And Always Will Be 傑作。アンドリュー・ヘイ長編五作目。山田太一『異人たちの夏』映画化作品。原作は未読だが、大林宣彦版は鑑賞済なので比較してみると、まず再会そのものが甘美でないことに驚いた。そりゃそうなのだが、大林版は人生に行き詰まった中年男が、楽しかったであろう子供時代の続きを演じ直すことが中心にあったので、言ってしまえば幼稚な印象を受けた。作品では二度目の訪問で(会話の流れでとはいえ)母親にカムアウトしており、その母親の典型的な反応も"何度もシミュレーションした結果の一つ"だろうと想像できるため、再会は必ずしも甘美でないし子供時代の続きすらも甘美なだけでない。だからこそ、浸るだけではなく向き合う必要がある。アダムは両親についての脚を書いていると言っていたのと、後半のサイ

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    okbc99 2024/04/19
  • ジョゼフィン・デッカー『Shirley シャーリイ』世界は女性たちに残酷すぎる|KnightsofOdessa

    大傑作。創作に行き詰まった小説家シャーリイ・ジャクスンについての物語を、偶然住み込みで働くことになったロージーの目線で描いていく作品で、象徴的な"家"が登場することから、映画自体にジャクスン人の小説のような趣があるらしい。ジャクスンの伝記モノとして、長編小説二作目「処刑人」を書いた時期を描いており、実際に起こっていた女学生ポーラの失踪事件を基に事件を深堀りする形で小説を展開することで映画を発展させていく構造になっている。すっかり板についてきたエリザベス・モスのパラノイア的演技も素晴らしい作品はサンダンス映画祭でプレミア上映後にベルリン映画祭のエンカウンター部門に出品された珍しい作品でもある。 物語は視点人物たるロージーとフレッド夫がシャーリイとスタンリー夫の家にやって来る場面から始まる。ベニントン大学の教授であるスタンリーを手伝いに来たフレッドは、とともに暮らす新しい家が見つかる

    ジョゼフィン・デッカー『Shirley シャーリイ』世界は女性たちに残酷すぎる|KnightsofOdessa
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    okbc99 2024/02/27
  • ビクトル・エリセ『瞳をとじて』過去と未来を見るヤヌス|KnightsofOdessa

    大傑作。ビクトル・エリセ長編四作目。1992年の『マルメロの陽光』以来31年ぶりの新作長編。それで170分は張り切りすぎだろ。映画は1990年に製作されたという劇中劇『The Farewell Gaze』の冒頭シーンで幕を開ける。フランスの田舎村で"悲しき王"と名付けられた屋敷に中国人執事と共に暮らす金持ち老人レヴィは元レジスタンスだった男フランクを呼び寄せ、中国で音信不通になった娘ジュディスを探して連れてきてくれと依頼する。彼はフランコ時代に国を離れたスペイン系ユダヤ人だった。フランクが屋敷を離れると同時に、彼を演じた俳優フリオが撮影中に行方不明になり、映画はお蔵入りとなったことが語られる。監督ミゲルもまた引退同然となって、今では漁村で隠者のような暮らしをしている。22年後にあたる2012年のマドリードで、失踪したフリオについて特集する番組に出演を決意したミゲルは、海兵時代からの親友だっ

    ビクトル・エリセ『瞳をとじて』過去と未来を見るヤヌス|KnightsofOdessa
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    okbc99 2024/02/09
  • レイチェル・ゴールデンバーグ『Unpregnant』"Never Rarely Sometimes Always" in ミズーリ|Knights of Odessa

    レイチェル・ゴールデンバーグ『Unpregnant』"Never Rarely Sometimes Always" in ミズーリ 敬虔なカトリックの両親に知られることなく中絶手術を受けるため、幼少期の親友と共にミズーリ州からアルバカーキまで(作中の検索結果だと片道14時間ちょっと)向かうロードムービー。誤解を恐れずに一言でまとめると、ポップな『Never Rarely Sometimes Always』である。同作との相違点は色々あるが、やはり最も大きな違いは作品が彼女たちの決断と旅路を努めて明るく描いていることだろう。暗くふさぎ込む必要なんかない!というメッセージの裏返しでもあるのだが、それは主人公ヴェロニカの元親友ベイリーの存在が大きい。ヴェロニカも道中でインスタの更新をするなど、日常と同じことをする自己暗示で多少の余裕を作り出そうとしているのだが、ベイリーはそれ以上にヴェロニカと

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    okbc99 2023/11/21
  • マーク・ジェンキン『ベイト(餌)』バカンス事業の暗部、或いは悪夢の"女っ気なし"|Knights of Odessa

    故郷コーンウォールを中心に活動するマーク・ジェンキンは、これが何目かの長編作品(多分五目?)であるのに全く無名であった。無名過ぎて長編デビューであると紹介された記事すらあった。金がないばかりに父から譲り受けた家を金持ちの別荘として売っ払い、生活のために最も必要な船ですら観光用に改装する兄弟の物語であり、正に悪夢版『女っ気なし』と言った具合か。魚の顔や人間の所作をグロテスクに強調する作品は、一連の行動をぶった切って分離してまで所作を強調するせいで、どこかサイレント映画的なぎこちなさと、ボタンを掛け違えたような居心地の悪さが共存している。ぶった切られた人間の動作は映画そのものに感染し、脈絡のないカットをサブリミナル的にぶち込むことで映画の流れを自由に伸縮させ時間すら超越させることで、プリミティブな形のモンタージュ理論を構築することに成功している。例えば、地元の女性がキューボールを投げるシ

    マーク・ジェンキン『ベイト(餌)』バカンス事業の暗部、或いは悪夢の"女っ気なし"|Knights of Odessa
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    okbc99 2023/11/21
  • ジュスティーヌ・トリエ『愛欲のセラピー』患者を本に書くセラピストって、おい|KnightsofOdessa

    早口でまくしたてる友人の忠告をありがたく受け取ったシビル。セラピストの彼女は自身が担当している患者を半分にして、残りの時間を念願だった執筆作業に充てることにする。いきなり"来週から担当変わります"と伝えてブチ切れる患者たちには全く負い目を感じていないが、時間が出来ても依然として執筆は進まない。『ソルフェリーノの戦い』『ヴィクトリア』とキャリアを順調に重ねるフランスの俊英ジュスティーヌ・トリエの最新作で、前作『ヴィクトリア』でも組んだフランスの人気コメディエンヌであるヴィルジニー・エフィラを再び主演に据えた二人の最新作である。日で簡単に手に入るエフィラさんの作品が『ターニング・タイド 希望の海』のちょい役という時代から長らくエフィラのファンをやっていながら、彼女の作品が続々公開されると非線形天邪鬼なので放置していたのだが、今回漸く劇場で彼女を拝むことが出来た。 残り半分の患者の相手をしつつ

    ジュスティーヌ・トリエ『愛欲のセラピー』患者を本に書くセラピストって、おい|KnightsofOdessa
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    okbc99 2023/05/29
  • クリストバル・レオン&ホアキン・コシーニャ『オオカミの家』チリ、洗脳アニメ映画の恐怖|KnightsofOdessa

    大傑作。チリの山奥で形成された逃亡ナチ党員たちによる理想郷コミュニティ"コロニア・ディグニダッド"で偶然発見された作品を監督二人がチリ政府支援の下でレストアし、映画内での行動を取らないよう啓発するために製作された作品という『ロリータ』並に面倒な体裁を持った作品。コロニーで育った少女マリアが、コロニーを抜け出し、彼女を追うとされる"オオカミ"に怯えながら逃避行を続けるさまを独特なコマ撮りで表現した作品である。"独特な"手法としたのは、実写の部屋と家具を使いながら、壁中に人やモノが描かれる二次元絵画と、壁画が床を伝って人形を形成し動き出す三次元絵画の両方を頻繁に往来するからだ。この往来が良い意味で実に気持ち悪い。例えば、ワンフレームごとに部屋の壁に描かれた絵(人物なり棚や扉みたいな舞台装置なり)を動かしていくと、一つ前のフレームの色が完全に背景色を上塗りできずに残像が残る形になったり。或いは

    クリストバル・レオン&ホアキン・コシーニャ『オオカミの家』チリ、洗脳アニメ映画の恐怖|KnightsofOdessa
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    okbc99 2023/05/19
  • マリー・クロイツァー『エリザベート 1878』シシィ神話の現代的な解体|KnightsofOdessa

    ウィーンに行くとオーストリア皇后エリーザベト、通称"シシィ"を至るところに目にする。街のお土産屋ではべ物から置き物まで様々な形状のシシィがいて、宮殿のショップなんかシシィしか居住者が居なかったのか?というほどの贔屓っぷりに驚かされる(私も眼鏡ケースを買いましたが)。しかし、そんなシシィも基的にはフランツ・ヴィンターハルターによる若かりし頃の肖像画がグッズ化されているに過ぎず、彼女のその後の人生は人々の記憶から抹消されているかのようだ。シシィといえば、ロミー・シュナイダーが演じたシシィ三部作も有名だが、これも(というかこれが?)シシィの若かりし頃を描いている作品で、ロミー・シュナイダーの人生すらもヴィンターハルターによる、或いは後年のシシィが拘泥した"シシィ的イメージ"(つまりは常に若く美しくあること)によってい潰されてしまった。ちなみに、同作は今でも欧州では根強い人気があるらしい。そ

    マリー・クロイツァー『エリザベート 1878』シシィ神話の現代的な解体|KnightsofOdessa
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    okbc99 2023/05/15
  • マルコ・ベロッキオ『夜の外側 イタリアを震撼させた55日間』イタリア、何もできなかった人々の物語|KnightsofOdessa

    超絶大傑作。1978年3月16日、イタリア元首相アルド・モーロは誘拐された。彼が推し進めていた共産党との連立政権の信任投票が行われる、歴史的な日の朝のことだった。当時のイタリアは1969年12月12日に起こったフォンターナ広場爆破事件以降、極右と極左のテロ組織による衝突が断続的に続く"鉛の時代"という重苦しい時代にあって、モーロを誘拐した"赤の旅団"も極左テロ組織だった。誘拐事件は55日間にも及び、結局モーロは殺害されて事件は終わった。平島幹氏による超絶詳しいブログによると、モーロ誘拐殺人事件に関しては今でも様々な人間が様々な角度から検証し続けるほどのトラウマを残し、イタリア現代史の空白になっているとのこと。ベロッキオは20年前に『夜よ、こんにちは』でも同様の題材を描いている。同作では誘拐実行犯が主人公となって、社会と非現実の狭間にいる人間たちの極限を描いていた。 作品は六話構成のドラマ

    マルコ・ベロッキオ『夜の外側 イタリアを震撼させた55日間』イタリア、何もできなかった人々の物語|KnightsofOdessa
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    okbc99 2023/05/14
  • 【ネタバレ】トッド・フィールド『TAR / ター』肥大したエゴを少しずつ剥がして残るものは?|KnightsofOdessa

    傑作。2022年ヴェネツィア映画祭コンペ部門選出作品。トッド・フィールド長編三作目で16年振りの新作。主人公リディア・タールは当代随一のオーケストラ指揮者だ。アメリカ五大オーケストラを経てベルリン・フィルハーモニーの首席指揮者となり、同じ現代の作曲家たちとも数々の作品を生み出し、舞台や映画音楽も書き上げ、EGOT(エミー/グラミー/オスカー/トニー)の15人のうちの1人である。正に現代の巨匠の一人であり、劇中で度々言及される過去の偉大な作曲家や指揮者たちと肩を並べるような存在だろう。ケイト・ブランシェットの存在感は、監督の"断られたら撮るのも辞める"という言葉に違わず圧倒的で、一言話し始めた瞬間から"あ…勝てない…"という強烈な個性を匂わせる。すご。序盤に登場するジュリアード音楽院での授業風景は非常に興味深い。クラシック用語はさっぱりなので専門的な会話による彼女の人物像の想像は全く出来ない

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    okbc99 2023/05/12
  • ジェームズ・グレイ『アルマゲドン・タイム ある日々の肖像』1980年代NYで少年が知った"白人の特権"|KnightsofOdessa

    2022年カンヌ映画祭コンペ部門選出作品。ジェームズ・グレイ長編八作目で、グレイとしては5度目の選出。1980年、東欧ユダヤ系移民の血を引く少年ポール・グラフは6年生になった初日、反抗的な黒人の留年生ジョニーとすぐさま意気投合する。ポールは中産階級の次男坊として特に不自由を感じることなく暮らしており、学業よりも芸術家になることを望んでノートの端に絵を書いて過ごしていて、理解のある祖父アーロン以外の家族とは反りが合わない。そんな彼の信じる世界は綺麗で小さなものだった。実家は超金持ちで、家族は暴力や差別からは程遠く、母親はPTAの役員として学校を牛耳っている、とポールは考えていた。しかし、現実は甘くない。ポールとジョニーの担任は問題行動を起こすジョニーを目の敵にしているが、やはり少々過剰であり、アーロンの母親はウクライナから戦禍を逃れて渡米した人物であり、アーロンからもラビノヴィッツというユダ

    ジェームズ・グレイ『アルマゲドン・タイム ある日々の肖像』1980年代NYで少年が知った"白人の特権"|KnightsofOdessa
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    okbc99 2023/05/12
  • ウルリケ・オッティンガー『アル中女の肖像』名もなき女のベルリン酒場放浪記|KnightsofOdessa

    大傑作。片道切符でベルリンにやって来た物言わぬ名もなき主人公。優雅なブルジョワである彼女の目的は、過去を忘れて破滅的な情熱に身を任せ、ひたすら酒を飲むこと。不自然にも人が少ない空港はそれだけでもワクワクしてしまうが、真っ赤なコートを着て颯爽と歩く主人公を様々なショットで美しく格好良く切り抜いていくので、余計に楽しい。主人公の足元(真っ白なヒール)が遠ざかる→イキった従業員がゴミ回収カートを暴走させてカメラ前で転ぶというシーン、ガラス越しにこちらを覗く主人公の前を突然水拭きし始めるシーンなど冒頭10分で圧倒的な満足度がある。街へ繰り出した主人公は酒場を渡り歩き、途中で出会ったホームレスの女性を仲間に引き入れて、破壊的な酒場放浪の旅に出る。そして、行く先々で遭遇する"正確な統計"社会問題""常識"と名付けられたギンガムチェックの女性三人衆が、主人公一行を取り巻く状況を解説する。社会規範や男性

    ウルリケ・オッティンガー『アル中女の肖像』名もなき女のベルリン酒場放浪記|KnightsofOdessa
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    okbc99 2023/04/18
  • 『死ぬまでに観たい映画1001本』を死ぬまでに全部観た! ~攻略マニュアル~|KnightsofOdessa

    11年かかったが、『死ぬまでに観たい映画1001』を完走した。 と言っても、完走したのは2011年版で、追加/削除された作品を含めると、まだ140ほどあるのだが、11年間小脇に抱えていた重たい棚に戻すという区切りの意味で、一旦走りきったことにしたい(残りもいずれ)。 他人の作ったリストをマラソンする最大の利点は、自分では選ばないような作品を観ることになる点にある。私はミュージカルとドキュメンタリーが苦手だし、有名な映画には興味がないし、80年代の映画はあまり好きになれないので、このリストに出会わなかったら今以上に偏った観賞履歴になっていただろう。しかし、『マルケータ・ラザロヴァー』という題名の厳つさに惹かれて東欧映画の森に迷い込んだのも、サイレント映画沼に足を突っ込んだのも、ガイ・マディンやジョン・ジョストに出会ったのも、全てこのがきっかけなので、最早出会わなかったことなど想像

    『死ぬまでに観たい映画1001本』を死ぬまでに全部観た! ~攻略マニュアル~|KnightsofOdessa
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    okbc99 2023/02/20
  • 2022年 新作ベスト10|KnightsofOdessa

    今年は社会人2年目ということで、業にも慣れ始めつつ仕事量も増えつつという年で、引っ越し等もあって中々時間を捻出するのが難しい年だった。加えて、新作映画が尽く奮わないという厳しい年で、モチベーションの維持が困難になり、全体の鑑賞数はほぼ横這いながら新作の鑑賞数は激減してしまった(新作鑑賞数の変遷:2020年374→2021年3552022年281)。それでも、5月にキネマ旬報にセルゲイ・ロズニツァの記事を書かせてもらったり、11月に京都に行って尊敬するフォロワーさんたちと会ったり、様々な縁が出来たありがたい年でもあった。今年の"新作"基準は以下の通り。 ①2022年製作の作品 159 ②2021年製作だが未鑑賞/未公開 96 ③2020年製作だが未鑑賞/未公開 25 今年の選定基準です。尚、下線のある作品は別に記事があるので、そちらも是非どうぞ。 1 . 麻希のいる世界

    2022年 新作ベスト10|KnightsofOdessa
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    okbc99 2022/12/30
  • ニナ・メンケス『クイーン・オブ・ダイヤモンド』アンチ・ラスベガス映画、それは馬のいない西部劇|KnightsofOdessa

    圧倒的大傑作。あまりにも素晴らしい。いきなり回転するダイヤのクイーン(トランプのカード)から始まる作品は、70年代の欧州でシャンタル・アケルマンが『ジャンヌ・ディエルマン』によってなし得たことを、90年代になってアメリカでメンケスが完成させた、とまで言われるニナ・メンケスの代表作である。1983年の中編『The Great Sadness of Zohara』以降の四部作の第三編に相当する作品は、これまでと同様にメンケス自身が脚や撮影監督、プロデューサーを務めている。そして主演は監督ニナの妹ティンカであり、彼女もまた初期四部作には全て登場している。 作品で主人公であるティンカ・メンケスが演じるのはラスヴェガスのブラックジャック・ディーラー。夜のシフトで働きながら、昼間は寝たり、場違いなほど美しい砂漠のオアシスを訪れたり、近所に暮らす寝たきり老人となった叔父を暇な時に介護したりしなが

    ニナ・メンケス『クイーン・オブ・ダイヤモンド』アンチ・ラスベガス映画、それは馬のいない西部劇|KnightsofOdessa
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    okbc99 2022/12/06
    “70年代の欧州でシャンタル・アケルマンが『ジャンヌ・ディエルマン』によってなし得たことを、90年代になってアメリカでメンケスが完成させた”
  • シルヴァン&ラモン・チュルヒャー『ガール・アンド・スパイダー』深い断絶と視線の連なり|KnightsofOdessa

    圧倒的大傑作。前作『The Strange Little Cat』に続く三部作の二作目。今回は前作のプロデューサーを務めていたラモンの双子の兄弟シルヴァンも共同監督としてクレジットされている。作品は多くの点で前作からパワーアップしている。作品はマーラ、リザ、マルクスの三人で同居していたアパートからリザだけが抜け出すという話で、引越し先のアパートでの荷物解体作業と元々いた部屋での引っ越し作業が中心となって展開される。つまり前作から舞台は二倍になり、引っ越し前後で近所の人々がぞろぞろと登場するので登場人物も二倍になり、それに伴って交わされる会話の内容も倍増する。それに加え、引っ越し作業をしていることから魅力的な小道具も増えまくり、なんだかんだで犬も増えている。しかも、家族ではないことから愛憎という感情の入り乱れが導入され、100分の作品とは思えないほど人間関係が入り乱れる。 マーラとリザ

    シルヴァン&ラモン・チュルヒャー『ガール・アンド・スパイダー』深い断絶と視線の連なり|KnightsofOdessa
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    okbc99 2022/11/22
  • セリーヌ・シアマ『秘密の森の、その向こう』一つの家二つの時間、小さなお母さんと私|KnightsofOdessa

    超絶大傑作!2021年ベルリン映画祭コンペ部門選出作品。今年のベルリン映画祭コンペは例年と少々異なり、中々レベルの高い布陣だった。カンヌ常連の濱口竜介とセリーヌ・シアマのおおよそカンヌっぽくない作品を呼び、ホン・サンスやフリーガウフ・ベネデク、ラドゥ・ジュデといった常連も呼び、開催国枠としてもクオリティを維持できている作品を呼んでいる。審査員も過去金熊受賞者で固めたことで、半分が東欧の監督で占められ、西欧の監督はジャンフランコ・ロージ一人だけだった。俳優賞も性別ではなく主演と助演に授与されることとなり、最初となる今年は両方女性が受賞することとなった。コロナという状況の中で、友達の接待に徹したカンヌとは雲泥の差とも言える試みで、是非とも今後も継続していってほしい。作品はシアマのキャリアの中で最も短い長編作品であり、8歳の少女ネリーを描いていることから、久々に初期作品に戻ったとも言われている

    セリーヌ・シアマ『秘密の森の、その向こう』一つの家二つの時間、小さなお母さんと私|KnightsofOdessa
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    okbc99 2022/07/20