こんなにも他人の態度に苛立ちを覚えることはない。 身なりだけは立派な壮年の男が神経質な表情で、たいして広くもない部屋で右往左往し、革靴で床を叩き、建て付けが悪い窓を罵る。 「カール」 「いったい、いつまで待たせるつもりだ。こっちは、朝からずっとここにいるというのに」 「おい」 「まったくこんなことになるなんて……共和国もノイシュタットも腹立たしい」 「落ち着け、カール」 「しかし……」 「いいから落ち着け! お前の態度が周りをいらいらさせる」 ふだんなら、こんなきついことはけっして言わない。しかし、さすがのダミアンも今は余裕がなかった。 ――まさか、ここまでとは。 まだ二人の執政官とは会えてはいない。だが、共和国に来た時点ですでに、十分すぎるほどの衝撃を受けていた。 ダスクが臨戦態勢にある。 首都ブランのすべてが物々しく、今日は平日だというのに街中は人影がまばらだ。 あちらこちらで軍の関係
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