隻腕のサウスポー、ジム・アボットが引退した。隻腕=片腕というのは、やや正確さを欠き、彼には腕はある。ただ、生まれつき右手首から先が欠損した障害者である。 高校時代からアボットの左腕はスカウトの注目を集めていたが、むしろフィールディングの方に感嘆の声が高かったという。グラブの持ち替え、いわゆるアボット・スイッチの手順はこうだ――障害のある右手の先に、グローブをかぶせる形で置いて投球。投げた後に、すばやく左手をグラブに差し込んで捕球すると、再びグラブを右腕と胸に挟み、左手でボールを握って送球する。 こうした複雑な投球動作を見て、誰でも思いつくのがバント戦法だろう。高校時代、8人の打者に連続してバントを命じた監督がいた。成功したのは、最初の一人だけである。また、大学時代には、捕手が山なりにトスするのを見て、ホームスチールを敢行したチームもあった―lこれもベース遙か手前でタッチアウトになった。