2013/1/229:0 あそこにエイズの村がある 安田菜津紀 ■HIV感染者が集められた村 カンボジアの首都プノンペン市、ボレイケーラ地区のスラム街を歩いていたときのことだった。街の人々が指差した先には、緑色の壁にかこまれた一画があった。小さな扉から中に入ってみると、そこには緑色のトタンで作られた長屋があり、ベニヤ板一枚で仕切られた部屋に、HIV感染者を抱える32家族が暮らしていた。彼らは自分の意思でここに移り住んできたのではない。元はこの地区にばらばらに住んでいた家族たちが、2007年、政府によってこの一角に集められたのだ。「夜9時になると、ここの扉を市の役人が閉めに来るんだよ」。村人がつぶやくように教えてくれた。住居の密集したこの地区の中で、この村の存在は少し異質に見えた。 近年開発が進み、首都プノンペンの地価上昇と共にスラム街の強制排除が相次いだ。ボレイケーラ地区は観光相の施設建設