星新一の小説の挿画や装丁で有名なイラストレーター真鍋博は、1973年に「自転車賛歌」なる書籍を刊行している。重化学工業を中心とした高度経済成長が限界を迎え、人口集中や公害による環境破壊が深刻化した時代にあって、彼のイラストレーションは常にシンプルで軽やかであり、明るくポップな世界を描いていた。本書でも同じスタイルで、自転車と社会の来るべき姿が提案される。 本書の中心は100ページ近くに渡って描かれる独創的な自転車たちだ。1ページまたは見開き2ページに1台の自転車が描かれ、名称と説明が添えられる。いずれも汎用的ではなく、乗り手と目的が明快だ。例えば最初のピクニック・サイクルは郊外に出掛ける三人乗り三輪車で、最後のお祭り自動車は高さ20mほどの山鉾を一人で操る巨大な四輪車といった具合。以下、名称と何ページかを並べてみよう。 ピクニック・サイクル、リフト自転車、体操自転車、変身自転車、尺取り自転