たとえば霧や あらゆる階段の跫音のなかから、 遺言執行人が、ぼんやりと姿を現す。 ――これがすべての始まりである。 (鮎川信夫 「死んだ男」第一連) 発売中の雑誌『正論』に載った、さかもと未明の「無力感を乗り越える力」という短いエッセーが、たいへん考えさせられる内容だったので、それについて書いてみたい。 このエッセーは、「ニート」と呼ばれる若者たちの集会に参加したという筆者が、彼らが強い無力感に苛まれていると感じて、『胸が痛くなった』という体験から語りはじめられる。 筆者は彼らの心情への共振と呼べるようなものを控え目に語った後、次のように書く。 ニートでなくとも、地方経済の衰弱によって失業や廃業に追い込まれている人が増えている。あるいは地震などの大規模災害に巻き込まれて、住む家や生活の基盤を失った人も少なくない。「自己責任」という言葉が一頃よく言われたが、自己の最善を尽くしても、どうにもな