トミヤマユキコ/早稲田大学文化構想学部助教 2018.5.7 「大学でマンガに関する授業を持っている」と言うと「マンガの描き方を教えてるんですか?」と訊かれがちだ。でも、わたしはマンガ家ではない。むしろめちゃくちゃ絵が下手である。 「描き方を教えるわけではなくて、少女マンガや成人女性向けマンガに描かれた女性の労働について分析・考察する授業なんですよ」と説明すると、不思議そうな顔をされる。まあ、そんな表情になってしまうのも無理はない。「そんなものが大学の授業として認められるのか?」と思うのも「え、少女マンガって、基本恋愛マンガでしょ? 労働関係ある?」と思うのも、よくかわるから。ごくたまに、目を爛々と輝かせお仕事マンガへの愛を語ってくれる人もいるけれど、それはかなりの少数派。 ……というわけで、わたしは「労働系女子マンガ」という、かなりマイナーなジャンルを研究している。研究をスタートさせるき
真辺 将之/早稲田大学文学学術院教授 「猫の歴史」に欠けているもの 空前の「猫ブーム」と言われて早十数年、もはやブームとは言えないほどに、巷には猫関連の記事やらグッズやらがあふれている。書籍の世界も例外ではなく、毎年かなりの量の猫本が出版されている。その波は歴史書の世界にも押し寄せており、ここ最近、猫の歴史に関する本が次々に出版されている。 しかし、これまで出ている猫の歴史に関する書物は、有名人に愛された猫を取り上げたものか、前近代までで記述が終わり近現代についてはあまり深く記述されていないものかのどちらかが中心となっている。有名人とは比較的上流階級の人々であり、それだけでは「普通の猫」がどのように生きていたのかはわからない。また猫の生活にとってもっとも変化が激しかったのは近現代という時代である。近現代史のなかでの猫のあり方を追わなければ、現在の人間と猫の関係がどのような歴史的経緯のもとで
埋もれる日本の先住民族、アイヌ ~アボリジニとの比較に見る高等教育の温度差~ 前田 耕司/早稲田大学大学院教育学研究科教授 ユニバーサル・アクセスとアファーマティブ・アクション 今月3日に文部科学省が発表した2017年度の「学校基本調査」(速報値)によれば、大学(学部)への進学率(過年度卒を含む)が52.6%に達するという。こうした50%を超える状態は、マーチン・トロウの説を援用すると[1]、「個人の教育機会の均等化」をめざすとされる「マス型」の段階から普遍的に多様な顧客層の高等教育段階への参加が認められるという「ユニバーサル型」の段階への移行を意味する。「ユニバーサル型」の段階になると、人種・民族・社会階層・性などの属性による進学機会の不均衡が是正され、高等教育へのアクセスにおいて不利益を被っているとされる人びとなどより多様で異なる属性を持つ集団を受け入れる方向にシフトする。そうした集団
グレートブックス 再考学部教育 ドモンドン・アンドリュー(Andrew Domondon)/早稲田大学理工学術院准教授 概論 数年間にわたり、私はプラトン、アリストテレス、デカルト、カントなどの偉大な思想家が著した「グレート・ブックス」と呼ばれる一連の古典を学部生に教える機会に恵まれてきました。そこでなぜ「グレート・ブックス」について教えるのか、尋ねられることがあります。恐らく、現在の日本の大学ではこうした著作について学部生に教えるのは一般的ではないからでしょう。学生や保護者の多くは、大学を主に「給料の良い仕事に就くための手段」として見ています。教授、大学運営に関わる理事、大学教育に関わる政府職員などの多くも「大学は研究活動に注力し、その国際的な地位の向上に努めるべきである」と考えているようです。就職準備も研究も高等教育の役割の一部ではありますが、私は学部教育のより重要な使命は別にあると考
大学ランキングの見方 松永 康/早稲田大学研究戦略センター教授 教育市場の国際化 昨今、世界大学ランキングがメディアで話題となっている。国内では、各出版社や予備校による大学ランキングが古くから存在するが、国際比較をした大学ランキングは存在しなかった。国際的な企業の格付けは、経済誌や投資ジャーナルで普及してきたが、それが日本の教育市場にも入ってきたわけで、世界大学ランキングは、教育の国際ビジネス化の流れと捉えて考えるべきである。 本学は、国際研究大学への躍進を標榜しており、私が所属する研究戦略センターは大学の研究力向上を任務としているため、世界大学ランキングの動向に注目せざるを得ない。もちろん、大学ランキングはひとつの見方であるから、順位自体を上げることが大学の研究教育活動の目的となることはない。しかし、早稲田大学が世界の研究大学と比較してどの点に優位性がありどの点が劣っているかを把握するに
加計学園報道から見えてきたマスメディア政治部の弊害 瀬川 至朗/早稲田大学政治経済学術院教授 誠実さと透明性に欠けた政府の説明 <新学部「総理の意向」 加計学園計画 文科省に記録文書 内閣府、早期対応求める>(2017年5月17日『朝日新聞』朝刊) 学校法人加計学園の獣医学部新設をめぐる問題は、朝日新聞が文部科学省内の文書の存在を報道して動き始めた。その後の報道から見えてきたのは、マスメディア(ここでは在京の新聞・テレビ・通信社を指す)における政治部と社会部の報道姿勢の違いであり、在京紙における朝日・毎日・東京と読売・産経の間の報道姿勢の二極化であった。本稿では、「権力とメディア」という視点からマスメディアの内部構造、とくに政治部と社会部の問題を読み解いてみる。 加計学園問題では、安倍首相の長年の友人が理事長を務める加計学園などから国家戦略特区諮問会議(安倍首相が議長)に対して出された獣医
クールビズ~なぜ28°C?~ 田辺 新一/早稲田大学理工学術院・建築学科教授 暑い夏が今年もやって来た。特に首都圏はヒートアイランド現象もあり、その暑さは熱帯並みである。その中で、2005年から政府主導で地球温暖化対策のため「クールビズ(COOLBIZ)」が行われている。夏の軽装も日本では定着してきた感がある。長年日本を訪れているデンマークの友人もずいぶん変わったねといっている。日本人といえば礼儀正しく、男性は暑くてもどこでもスーツとネクタイという一昔前の姿が印象に残っているからだろう。今でも半袖のシャツは略式なため、服装にうるさい人は、夏の暑い時にでも長袖シャツしか着ない。また、ワイシャツは下着という考えもあり、暑くても上着を脱がないで我慢する人もいる(ご苦労様です)。 何を根拠に決められたのか クールビズにより着衣の軽装化への心理的な抵抗や社会的な壁が取り払われ、一人一人の個人が省エネ
台頭する権威主義的ポピュリズム ドナルド・トランプ氏はなぜ大統領になれたのか ティモシー・スール (Timothy Seul)/早稲田大学国際学術院教授 ドナルド・トランプ氏が第45代アメリカ合衆国大統領に選ばれた理由は、さまざまな角度から考察することができますが、恐らく最も分かりやすい理由は、過去数十年間に及ぶ新自由主義政策の失敗――すなわち、規制緩和と緊縮財政――でしょう。結果として、これらの政策の推進者に富が集中してしまったからです。富が少数派の手に集中していることを示す統計情報は、広く出回っています。例えば、「上位8人の億万長者が、世界人口の下位半分と同額の資産を持っている」という事実は有名です。端的に言って、新自由主義的経済政策庇護下のグローバル化礼賛は、勝ち組と負け組が存在するという事実を隠蔽(いんぺい)したのです。負け組が、その不満を代弁してくれる指導者を見いだすのは、時間の
組体操の重大事故を防ぐために ―体育行事における学校の安全配慮義務 羽田 真/早稲田大学本庄高等学院教諭 10月の第2月曜日は体育の日である。天候が安定するこの時期は、運動会や球技大会などの体育行事を実施する学校も多い。青空の下、校庭を全力で走り、声を枯らして応援したのを懐かしむ方や、観覧に出かけて我が子の活躍ぶりに目を細める方もいるだろう。 巨大化する組体操の是非 これらの体育行事でとりわけ注目を集める演目が組体操である。難易度が高く訓練が必要な技を、大人数で一体となり成功させることができれば、観客を感動させ、生徒たちは他に代えがたい達成感を覚える。その教育効果の高さもさることながら、イベントに盛り上がりを添える「華」としての役割もあって、組体操の巨大化・高層化が目立つようになった。一方で、大人数でのピラミッドやタワーなどの技の危険性も議論の的となっている。練習や本番で生徒が重傷を負う事
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