1カ月に1度は、まったく方向違いの電車に乗ってしまう。建物を出て歩き出し、間違いに気付いてUターンして警備員に不思議な顔をされることは日常茶飯事。ときには自分が住む建物の前を素通りしてしまうことも。家に帰れば帰ったで電気のスイッチがどこにあるのかわからず、壁をいたずらにまさぐることになる。 それもこれも、ニューヨークの中をあり得ないほど引っ越しているから。つい先日から住み始めたこの部屋は、この2年で12軒目だ。3日間だけ暮らした家もある。最長は5カ月だった。 僕がこれほどたくさんの家に住んできたのは、「サブレット」というアメリカならではのシステムのおかげだ。休暇や転勤で留守にする部屋をまた貸しするのがサブレットだ。 サブレットのマイナス面は書かなくてもわかるだろうから、ここでは触れない。何度も引越しするのはもちろん不便だが、そのメリットは計り知れない。家具もテレビも電子レンジも買わずに済む