この作品は、ケン・リュウ氏によるSF短編「カルタゴの薔薇」("Carthaginian Rose", by Ken Liu)の日本語訳です。 まえがき 中国系アメリカ人作家、ケン・リュウ氏は日本でも知名度を増しています。弁護士、プログラマーとして働く傍ら作品を執筆し、さらに近年話題の「三体」をはじめとする中国SFの英訳も手掛ける多才な作家である氏は、その温かみのある作風と、ルーツでもある中国に関するテーマ、そしてときに鋭利な思索上の視点が特徴的です。 さて、氏の処女作は本文で扱う2002年初版の「カルタゴの薔薇」(原題:Carthaginian Rose)です。20年近く前に書かれたこの作品は、日進月歩のSFテーマとしては2021年現在、やや古典的な部類に属するものを扱いますが、作中に描かれる屈折した関係性は、むしろ近年の文脈における百合に位置づけられる側面も持ち、とても興味深いものです。