女子高生を対象にした1994年の調査で「好きなファッションビル、総合雑貨店」の1位に選ばれたのは、東急ハンズ渋谷店だった。渋谷文化の象徴として一世を風靡した東急ハンズだが、コロナ禍で巨額の赤字を抱え、最後は競合他社に買収されるに至った。46年前の創業から今日まで、同社が戦後日本の経済・文化史に残した足跡をたどる。 2022年3月31日、ホームセンター大手のカインズは東急ハンズを買収した。カインズは東急ハンズを「パートナー」と位置づけ、当面は屋号も維持する方針だが、東急ハンズは2020年12月末に三宮店(1988年3月開店)、2021年10月末に池袋店(1984年10月開店)を閉店しており、2021年12月22日に買収のニュースが報道された時は「昔ながらの東急ハンズ」を知る人びとを残念がらせた。そこで本稿は同社の「思想」とその歩みを振り返り、そもそも「昔ながらの東急ハンズ」とはいかなるもので
ロシア、中国、北朝鮮は、核による脅しで概ね共通した戦略を持つと考えられる(ロシアのプーチン大統領=2月27日) (C)EPA=時事 ウクライナ危機でプーチン大統領がとった核恫喝は、「核武装した現状変更国」が状況を意図的にエスカレートさせることで相手に妥協を強いる「エスカレーション抑止(escalate to de-escalate)」戦略だと理解できる。これに緊張緩和を最優先する一見“常識的”な回避志向で臨むことは、我々が望む方法とタイミングで危機を収束させるための主導権を手放すことになりかねない。 (この記事の後編『非核三原則の見直しと「核共有」は、東アジアの拡大抑止モデルとなりうるか』は、こちらのリンク先からお読みいただけます) 2月24日、ウラジーミル・プーチン大統領はウクライナに対する事実上の宣戦布告演説の中で、ロシアは今でも世界最大の核保有国の一つであることを強調した上で、「我
長年、旧ソ連が秘密裏に作成していた世界地図は、その精緻さと膨大さにおいて西側諸国の地図を凌ぐものだった――。「レッド・アトラス」と呼ばれ、現在のロシアでもいまだに機密扱いとなっているというそれらの地図だが、ソ連崩壊後の混乱の中で、一部はいくつかのルートを通って西側に流出した。 その「レッド・アトラス」研究の第一人者が、英国地図製作協会会長を務めるアレクサンダー・J・ケント氏(英国カンタベリー・クライスト・チャーチ大学準教授)である。今年3月、同じく英国の地図研究者であるジョン・デイビス氏との共著『レッド・アトラス――恐るべきソ連の世界地図――』(日経ナショナルジオグラフィック社)を上梓したケント氏が、7月中旬、国際地図学会議東京大会に参加するために初来日した。
日清食品創業者の安藤百福と、その妻・仁子をモデルにしたNHK連続テレビ小説『まんぷく』。好評のまま、物語は佳境を迎えつつあるが、終盤の山場は、安藤氏が無一文からチキンラーメンの開発で「一発逆転」を勝ち取るところだ。一方、安藤氏や日清食品側はかねて「発明」説をとってきたが、そこには異論も少なくない。本連載「世界漫遊『食考学』の旅」の番外編として、安藤氏が暮らした台湾と大阪の現地取材で検証した。 「発明」説にはいささか納得できない 夜食でチキンラーメンを食べるのが楽しみだった。柔らかめに麺を茹でるのが好きで、醤油と鶏ダシと油の混ざった汁を、たっぷり麺に吸わせて、ずるずるっと啜り上げる。高校時代の受験勉強で夜中にお腹が空くと、鍋に水と麺を最初から入れてつくった。そうする方が麺がよくふやけるからだ。気が向けば、卵もひとつ落とした。
防衛省のイラク日報隠蔽問題が、話題になっている。日報については、すでに南スーダンPKO(国連平和維持活動)派遣(2012年~2017年)の際に問題になった。組織的な問題も背景にあるのは確かだろう。しかしより根本的な問題は、世界の現実と日本の法制度の間の、覆い隠すことができないギャップだ。 イラク派遣(2003年~2009年)時の「イラク特措法」はすでに失効しているが、1992年に成立した「PKO協力法」は今も有効だ。しかし南スーダン派遣時に明らかになったように、この法律は日本独自の制約を加えているだけでなく、そもそも冷戦時代の国連PKOをモデルにしたという点で、現実と大きく乖離している。それは日本の憲法解釈問題だけではない。日本人のPKOに対する理解そのものが、現代世界の現実と乖離しているのである。
ボストンの高級住宅街を車で通過すると、わずか数分で、同じ通り沿いにもかかわらず、薬物依存症の人たちがホームレスとなって住んでいる地域にたどり着きます。この地域について10月27日、『CNN』があるレポートで取り上げていました。まずその内容をご紹介します。 「死んだ方が楽だと思う」 5歳の息子の父親であるビリーさん(31)は、16歳から注射器を使ってヘロインを常用していました。きっかけは、13歳のときに処方された医療用麻薬のオピオイド系鎮痛剤でした。しかし、この鎮痛剤は高価だったため、替わりに安価で幻覚作用の強いヘロインを鼻から吸引し始め、次第に即効性のある静脈注射を使用するようになりました。ヘロインを始めて服用した際には、まるで「神様に会ったような」多幸感に包まれるほどだったと、そのときの様子を説明しています。
9月に日本でも発売された米テスラのEV車「モデルX」。右は米テスラ日本法人のニコラ・ヴィレジェ社長(C)時事 まもなく訪れる2017年は、世界の自動車産業のありようが大きく変わる年になりそうだ。すでに欧州ではドイツなどが「脱内燃機関」に向けて動き出した。米国では電気自動車大手のテスラモーターズが300万円台の電気自動車を発売する。内燃機関時代に自動車産業を制した日本だが、早くもスタート・ダッシュで大きく出遅れている。 自動車産業から消える「内燃機関」 ドイツの連邦参議院は9月末、「2030年までに、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどの内燃機関を搭載した新車の販売禁止」を求める決議を採択した。
通称「ダラプリム」と呼ばれる、62年前に開発された薬剤をご存じでしょうか。これは妊婦が感染すると死産や流産を、あるいは免疫力が低下しているエイズ患者や一部のがん患者などが感染すると重篤な脳症から場合によっては死に至るというトキソプラズマ症や、高熱や頭痛を引き起こす感染症であるマラリアの治療薬として利用されています。 昨年9月、その薬剤に関するニュースが全米の注目を集めました。米製薬会社「チューリング医薬品(Turing Pharmaceuticals)」の32歳のCEO(最高経営責任者)マーチン・シュクレリ氏が同年8月、ダラプリムの製造販売権を買収し、なんと、一晩で薬価を1錠13.50ドル(約1620円)から750ドル(約9万円)へ、実に55倍以上も引き上げたのです。米メディアはシュクレリ氏を「米国で最も嫌われる男」と呼んだほどでした。
南シナ海をめぐる米中対立にからみ、最近、自民党の野田聖子衆院議員が「直接日本と関係がない」と語ったことについて、「失言だ」という批判が集まった。野田議員は自民党のベテラン女性議員で、日本で初の女性首相に最も近い1人と目されている。その政治的主張はハト派で安倍首相とは一線を画しており、9月の自民党総裁選挙でも唯一、安倍首相の無投票再選に異を唱えようと出馬を目指し、注目された。 野田議員の発言について、安全保障問題に理解がなさすぎる、米国が南シナ海に艦艇を派遣した深刻さを理解していない、など、主に外交論や安保論から疑問が向けられた。野田議員が対中関係を重視するために南シナ海について当面中国への批判を封印すべきだという考えで語ったのであれば、筆者の考えとは違うが、それはそれで1つの立場であると受け止めることができる。ただ、もしも日本と南シナ海との深い関わりを念頭に置かずに語ったのであれば、それは
池内恵(いけうちさとし) 東京大学先端科学技術研究センター グローバルセキュリティ・宗教分野教授。1973年生まれ。東京大学大学院総合文化研究科地域文化研究専攻博士課程単位取得退学。日本貿易振興機構アジア経済研究所研究員、国際日本文化研究センター准教授を経て、2008年10月より東京大学先端科学技術研究センター准教授、2018年10月より現職。著書に『現代アラブの社会思想』(講談社現代新書、2002年大佛次郎論壇賞)、『イスラーム世界の論じ方』(中央公論新社、2009年サントリー学芸賞)、『イスラーム国の衝撃』(文春新書)、『【中東大混迷を解く】 サイクス=ピコ協定 百年の呪縛』 (新潮選書)、 本誌連載をまとめた『中東 危機の震源を読む』(同)などがある。個人ブログ「中東・イスラーム学の風姿花伝」(http://ikeuchisatoshi.com/)。
池内恵(いけうちさとし) 東京大学先端科学技術研究センター グローバルセキュリティ・宗教分野教授。1973年生まれ。東京大学大学院総合文化研究科地域文化研究専攻博士課程単位取得退学。日本貿易振興機構アジア経済研究所研究員、国際日本文化研究センター准教授を経て、2008年10月より東京大学先端科学技術研究センター准教授、2018年10月より現職。著書に『現代アラブの社会思想』(講談社現代新書、2002年大佛次郎論壇賞)、『イスラーム世界の論じ方』(中央公論新社、2009年サントリー学芸賞)、『イスラーム国の衝撃』(文春新書)、『【中東大混迷を解く】 サイクス=ピコ協定 百年の呪縛』 (新潮選書)、 本誌連載をまとめた『中東 危機の震源を読む』(同)などがある。個人ブログ「中東・イスラーム学の風姿花伝」(http://ikeuchisatoshi.com/)。
深夜の台湾に衝撃が走った。日本時間の3日午後11時半、台湾のテレビに「速報」の文字が突然現れた。「週六馬習会(土曜日に、馬英九・習近平が会談へ)」。情報のソースは、ネットで速報を流した『自由時報』だった。自由時報は台湾の日刊紙で、政治的立場は明確な民進党寄り、反国民党、反中国を掲げている。記事を発信したのは自由時報きってのベテラン記者で、台湾の政権内部に太いパイプを持っていることで知られる鄒景雯記者で、1949年の中台分断以来、初のトップ会談を伝えるさすがの力量を示した。 馬総統の独断か? 同紙の立場を反映して、その報じ方は厳しいものだった。「台湾の公民社会や国会の同意と了解を得ておらず、民主国家の常規を外しており、社会に大きな衝撃をもたらすだろう」「本紙の報道まで、ブラックボックスの作業が行われており、公開透明原則にも反している」。そんな手厳しい評論が並んだ。
インドネシアの高速鉄道計画において、日本が受注競争で中国に負けたことは大きなニュースとなった。日本政府は、首都ジャカルタとジャワ島東部にある第2の都市スラバヤを結ぶ高速鉄道の導入を2008年にインドネシア政府に対して提案して以降、高速鉄道建設計画では常に先頭を走ってきた。同計画が巨額の事業費ゆえに早期の実現が不可能だということが判明すると、日本は2011年からはその先行区間として、ジャカルタと西ジャワ州の州都バンドンを結ぶ高速鉄道の建設を提案した。この計画は、日本が官民一体で協力しているジャカルタ首都圏の地域開発計画――ジャカルタ首都圏投資促進特別地域(MPA)構想――にも盛り込まれ、日本が優勢な形で進められようとしていた。それだけに、中国案を採用するというインドネシア政府の決定が日本政府に与えたショックも大きかったのである。
10月15、16両日に北京で開催されたASEAN・中国国防相会議出席のための訪中を前にした10月7日、タイのプラウィット副首相兼国防相(陸軍大将)は「中国側メディアが盛んに報じているクラ地峡運河建設に関し、中国側と正式調印することはない。この報道は根拠のないものだ」と語った。 クラ地峡はタイとマレーシアとミャンマーが連なるマレー半島中央部に位置し、最も狭い部分は44キロ、最高地点は75メートル。ここに運河を建設し、西のアンダマン海と東のシャム湾を繋げば、マラッカ海峡を経由しなくてもヨーロッパ、中東、インドと太平洋を直接結びつけることができるという大構想だ。マラッカ・ジレンマも海賊問題も一挙に解決されることになるだろうし、そのうえ航路が大幅に短縮されるから輸送コストの大幅減も期待でき、いわば“一挙三得”といったところか。
池内恵(いけうちさとし) 東京大学先端科学技術研究センター グローバルセキュリティ・宗教分野教授。1973年生まれ。東京大学大学院総合文化研究科地域文化研究専攻博士課程単位取得退学。日本貿易振興機構アジア経済研究所研究員、国際日本文化研究センター准教授を経て、2008年10月より東京大学先端科学技術研究センター准教授、2018年10月より現職。著書に『現代アラブの社会思想』(講談社現代新書、2002年大佛次郎論壇賞)、『イスラーム世界の論じ方』(中央公論新社、2009年サントリー学芸賞)、『イスラーム国の衝撃』(文春新書)、『【中東大混迷を解く】 サイクス=ピコ協定 百年の呪縛』 (新潮選書)、 本誌連載をまとめた『中東 危機の震源を読む』(同)などがある。個人ブログ「中東・イスラーム学の風姿花伝」(http://ikeuchisatoshi.com/)。
9月7日、粉飾決算問題の渦中にある東芝が4カ月遅れでようやく発表に漕ぎ着けた2015年3月期決算。同日の夕刊各紙は1面トップで「東芝、利益減額2248億円」(日本経済新聞)、「東芝、不正会計2248億円」(朝日新聞)などと過去7年間の利益水増しの総額を見出しに取っていた。だが、重電業界担当のアナリストたちの注目の的は、同社の電力・社会インフラ部門、中でも原子力発電事業での損失計上の有無だった。案の定、米テキサス州で手がけていた原発建設プロジェクトで同社は新たに410億円の減損を余儀なくされた。4年前の東京電力福島第1原発事故をきっかけにパートナーの企業が相次ぎ撤退し、事実上頓挫したにもかかわらず、「誰も諦めたわけではない」と東芝幹部が強弁を続けてきた、いわくつきの案件である。
傑出したカリスマ性を持つトップの死は組織に大混乱をもたらす。よって当分の間、死を秘匿する、という策略は古今東西を問わずあり得る。日本でも、武田信玄の死後、家督を相続した勝頼が遺言を守って、葬儀をせず、信玄の死を覚(さと)られないよう工作した。 それでは、アフガニスタンのイスラム教原理主義組織タリバン最高指導者ムハマド・オマル師の場合、2年以上前に死亡していた事実がなぜ突然発表されたのか。 オマル師は、過去に何度も死亡説が流れたが、「生存説」の方がアフガン、米国、パキスタン各政府にとっても、タリバンにとっても都合が良かった、と8月7日付ニューヨーク・タイムズは伝えている。 従って、パキスタンの情報機関、3軍統合情報部(ISI)も米中央情報局(CIA)も死亡説を徹底追及しなかったようだ。しかし、オマル師の死でアフガン和平に向けた政府とタリバンの交渉が無期延期となり、パキスタンも米国も困惑してい
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