ちくま文庫2月新刊から、高橋和巳著『消えたいーー虐待された人の生き方から知る心の幸せ』の解説をご紹介します。書き手は作家の橋本治氏です。 自らの体験から、率直に書いていただきました。「普通」とは何なのか、すべての人に対する重い問いかけです。 こういう言い方をすると人を傷つけることになるのであまり言いたくはありませんが、実は私は被虐待児でした。そのことは重々承知していて、そのことに由来する身体症状もないので、この『消えたい』という本の文庫版の解説を書いてほしいという依頼を受けた時、たいして考えもせず「いいですよ」と了承してしまいました。「逃げずに直視すべきだ」というへんな気がしたからですが、読み始めてすぐに後悔をしました。「解説を書く」というような客観的な距離が取れません。情緒不安定な状態が三日ばかり続いて、しばらくは本を手にすることが出来なくなりました。 私が「そのこと」に気づいたのは、小