ブックマーク / saga135.hatenablog.jp (169)

  • 甦るパノラマ  十四話 - 人生は花鳥風月

    二人だけの卒業式。真の卒業式。その日に交わした初めての契りはこの3年間の高校生活の集大成を飾るような烈しくも甘美な形を彩り、二人の愛の着地点でもあったのか。そう解釈してしまうのも些か虚しい気もするのだが、少なくとも一つの節目であった事には違いないだろう。 それが真の愛なのか、勢いだけのものなのか。聡明なさゆりが勢いだけで他人に靡く訳がないと確信していた英昭は今一度彼女の顔を見つめながら呟くのだった。 「良かったな」 さゆりは少し照れながらも相変わらずの毅然とした態度で答える。 「そうね、良かったわ」 そして顔を見合わせた二人は徐に笑すのだった。愛に理屈など要らないと言えば尤もらしくも聴こえるのだがそれだけで良いとも言い切れない。愛し合う理由と言えば硬く感じるがそこに多少なりとも理を求める事も事実ではあり、亦それこそが人間の弱さのような気もする。 有形無形。この二つの形が織りなす真意とは何な

    甦るパノラマ  十四話 - 人生は花鳥風月
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    suoaei 2021/07/17
  • 甦るパノラマ  十三話 - 人生は花鳥風月

    光陰流水の如し。高校に入学して早や3年という歳月が経った今、英昭はいよいよ卒業の時を迎える。まだ寒さの残る3月上旬ではあったが、1、2月をやり過ごした事で少しは気が楽になっていた。 桃の花を見上げながら思う事はその美しい佇まいと、この3年という歳月が表す懐かしさと、これから将来に向けての抱負だった。 ぼんやりと眺めていた英昭の目には木の梢に停まった一羽の蝶の姿が映る。冬の間は幼虫として身を竦めていたであろうこの蝶は春の陽射しを感じ取り、その可憐な姿を目一杯広げて晴れやかに飛び回っている訳だが、果たして当に嬉しいのだろうか。嬉しくないといえば嘘になるかもしれないが、真に嬉しいかといえばそれも言い切る事は出来ないようにも思える。 人という生き物が他の生命よりも繊細であるかは分からないが、この蝶にも二元論の狭間で葛藤する事は時としてあるのではなかろうか。そう仮定した場合、今のこの蝶や樹々、あら

    甦るパノラマ  十三話 - 人生は花鳥風月
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    suoaei 2021/07/16
  • 甦るパノラマ  十二話 - 人生は花鳥風月

    それから一年余の月日が流れ高校三年生の正月を過ぎた一月中旬。秋の優雅な雰囲気を一切拭い去ったこの時期に感じる事はただ寒いだけという実に淋しいものだ。あれだけ鮮やかに咲き誇っていた樹々もすっかり枯れ果て、葉を失ったその姿はまるで案山子のようにも見える。 白い雪にも風情を感じない訳でもないが、人間に動物、虫、植物、あらゆる生命の中で特に人が抱く正直な気持ちとしてはこの寒さの厳しい冬を出来るだけ早く通り過ぎ、穏やかな春の到来を待つというのが専らであろう。 そんな些か贅沢に思える感情とは別に、質の違った贅沢、或いは夢物語とも思える幻想に浸っていた者が居た。 英昭のギャンブルの調子はあれからもちょっとした浮き沈みはあったものの、その収支はあくまでもプラスで景気の良いものであった。 ギャンブル好きな者なら誰もが一度は見る夢、玄人(ばいにん)。博打で生計を立てる事など普通に考えれば馬鹿げた話である事は言

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    suoaei 2021/07/15
  • 甦るパノラマ  十話 - 人生は花鳥風月

    それから数日が経った体育祭当日、この日も朝から気持ち良く晴れた渡った空は地上を明るく照らし出し、万物に生命の息吹を与えてくれる。正に体育祭日和。そこまでの関心が無いまでもまだ若い英昭や他の生徒達は意気揚々と胸を弾ませ、気を逸らせながら登校する。 その心意気に乗じるように華麗に飛び立つ鳥や、虫達の微笑ましくも勇ましい果敢な姿は恰も体育祭に出場する一選手のような漂いさえある。 「母さんも後で見に行くから」 玄関先まで英昭を見送った母もそう言って明るい笑みを浮かべていた。英昭は内心別に来なくてもいいよとは思いながらも母と同じく笑みを浮かべてアイコンタクトを取り、軽い足取りで歩き出す。 学生服に身を包んだ生徒が日曜日に外を歩くのは部活動か何か特別な行事があるに違いない。近所の人達も英昭の姿を見るなり 「おはよう、体育祭? 頑張ってね」 と愛想の良い声を掛けてくれた。 「おはよう御座います、頑張って

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    suoaei 2021/07/12
  • 甦るパノラマ  九話 - 人生は花鳥風月

    拍手で迎えられたさゆりは皆にチヤホヤされながらも相変わらずの冷静沈着な様子で自分の持ち場へ戻る。殆ど息も切らせてはいない。人よりもテンションの上がっていた同級生が笑顔で語り掛ける。 「さゆり凄いじゃない! また速くなったんじゃない? 女子ではno.1間違いなしね」 女子達で盛り上がっている中に恐る恐る近づいて行く英昭。彼もまた自分の高揚感を抑え切れない一人であった。 「お見事!」 訊き覚えのあるその声に振り向いたさゆりは以前として落ち着いた様子で済ましていた。英昭は次の言葉に迷いながらも正直な想いを投げ掛けてみた。 「まだ怒ってんのか? 俺が悪かったよ、それにしてもさゆりがこんなに足が速いとは全然知らなかったよ、正に知勇、いや才色兼備だな」 この瞬間さゆりは少しだけ微笑んだように見えた。だが未だ何も答えてはくれない。 「放課後あの公園で待ってるよ」 とだけ言い置いてその場を立ち去る英昭。

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    suoaei 2021/07/11
  • 甦るパノラマ  八話 - 人生は花鳥風月

    料理べ始める英昭の手は些かなりとも震えていた。母が丹精を込めて作ってくれた料理は美味しいに決まっているのだが、せっかくの御馳走も気が沈んでいた今の英昭の喉を余り通らない。だが母を悲しませてはいけないと思った彼は少し大袈裟な物言いをする。 「めっちゃくちゃ美味しいよ! こんな料理べたのは生まれて初めてだよ!」 「ふん、大袈裟な子ね」 一口べただけでそこまで感動する英昭の様子を訝った母は彼の顔にはっきりと目を見据えて今日一日の事を訊いて来た。 「で、競馬場デートはどうだったの?」 益々慌てた英昭はて少し活舌の悪い言い方をする。 「な、何でデートだと分かったんだよ?」 「あんたの様子を見てたら嫌でも分かるわよ、彼女とはどうなの?」 「ま~、巧く行ってるけど」 「ふ~ん」 「何だよ?」 「別に、ところであんた儲かったの?」 「何の話だよ? 馬券なんて買ってないって」 「なら何で競馬場なん

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    suoaei 2021/07/10
  • 甦るパノラマ  七話 - 人生は花鳥風月

    パーンパパパパパパパーン。 軽快に、高らかに鳴り響くファンファーレは如何にも今から一大競走が始まるかのような大袈裟な雰囲気を辺り一帯に漂わし、観客達の心は更に昂奮して行く。 第一回秋華賞、レース場に姿を現した騎手達は各々の馬に跨り颯爽と返し馬に赴く。その可憐な雄姿に魅了された一同は歓声を上げて応援する。天高く響き渡る歓声に共鳴するように二つに割れた雲間からは眩しいまでの光芒が差し込み、光輝く競走馬の毛艶は美しさを増す。これには流石のさゆりも感動したようでその表情は多少なりともうっとりとしてた。 そんなさゆりの肩に手を添えレース場を遠くに見つめる英昭。この時の彼の表情はあくまでも一人の純粋無垢な好青年といった感じに見える。今の英昭なら.......とふと思うさゆり。二人の心の争いはこの一瞬だけ止んだような気がした。 そうしていよいよゲートが開かれた。勇ましく走り出す競走馬は騎手を背に乗せただ

    甦るパノラマ  七話 - 人生は花鳥風月
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    suoaei 2021/07/09
  • 甦るパノラマ  六話 - 人生は花鳥風月

    この日のメインレース(11R)はG1秋華賞だった。牝馬のクラシック戦線であるこの重賞レースは今年から新しく始まったG1レースで場内も熱気にに溢れていた。 英昭はデートに必要な最低限の金しか持って来ておらず、前もって予想もしていなかったのだが、いざさゆりの下を離れ一人になると自ずとギャンブル好きの血が騒ぎ、結局はそのなけなしの資金で馬券を購入してしまった。彼が買った馬券はこの秋華賞の馬連でその購入額は僅か500円だけであった。こんなものが当たる訳がない。英昭はダメ元で遊びで購入しただけだった。 弁当を買って戻るとさゆりは元の場所に坐ったままで英昭の顔に目をやり優しく微笑んだ。一安心した英昭は弁当とお茶を渡し、二人同時にべだした。 周りには二人と同じようにして朗らかな表情で弁当をべている家族連れが何組も居た。一人のまだ幼い子供が両親に対して 「美味しい~」 と言いながら覚束ない手つきで

    甦るパノラマ  六話 - 人生は花鳥風月
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    suoaei 2021/07/08
  • 甦るパノラマ  五話 - 人生は花鳥風月

    二日後のデート当日は薄曇りながらも雨が降る気配は余り感じられない。英昭は何時ものように傘を持たずに家を出る。すると後ろから母が声を掛けて来た。 「一応傘持って行ったら? 何時降って来るか分からないわよ」 「いいんだって」 母の忠告に耳を傾けなかった英昭は意気揚々と出発する。性格も然る事ながらこれも根拠のない自信という若者の特権なのだろうか。今の英昭には怖いものなど何一つ無かったようにも思えるのだった。 二駅電車に乗り何時も二人が学校帰りに分かれている駅のホームでさゆりを待つ英昭。気が逸る彼の心情はまるで遠足に出掛ける幼稚園児のような幼さを漂わせる。時計を何回も見直し、時間を確かめる。約束の時間からは既に15分が過ぎていた。さゆりは時間にルーズな女性ではない、まさかドタキャンされたのか? 焦燥感に駆られた英昭はある事ない事想いを巡らし、その行き先は悪い方にばかり向かう。 人の心理とはつくづく

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    suoaei 2021/07/07
  • 七夕は年間行事No.1  ~不変の想い - 人生は花鳥風月

    天の川  夢に観ゆるは  七夕か(笑) 笹の葉さらさら~ のきばに揺れる~ お星さまきらきら きんぎんすなご ♫ この歌を思い浮かべるだけでも心が癒され気持ち良くなって来ます。 年間行事や記念日には余り関心が無い自分ですが、七夕だけは当に好きですね。はっきり言って正月の次に、いや寧ろ同等に好きなぐらいです。 今日は生憎の天気なのですが、一年に一度の七夕を祝う気持ちには何ら変わりはありません。毎日同じ事ですけど、特に今日という一日は大事にしたいと思います。 七夕とは 中国、日韓国台湾、ベトナムなどにおける節供、節日の一つで、五節句の一つにも数えられ、その起源は中国の漢の時代に編纂された織女、牽牛の伝説『古詩十九首』に端を発すると言われています。 日には、奈良時代に宮中儀式として伝わり、元からあった日の棚機津女(たなばたつめ)の伝説と合わさって生まれた。 織姫が機(はた)織りの上手

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    suoaei 2021/07/07
  • 甦るパノラマ  三話 - 人生は花鳥風月

    棚から牡丹とでも言おうか。思いもしなかったさゆりとの出会いは最近の英昭にとっては大袈裟な言い方をすると、ギャンブルで勝った時以外で初めて経験する喜びであったようにも感じる。やはり幸運というものは掴もうとして掴めるものではなく、意図せずに舞い込んで来るものなのだろうか。 これはギャンブルに於いても同じ事が言える訳なのだが、それとこれを一緒にしてしまうのは少々軽率でさゆりに対しても非礼に値するようにも思える。公園を出て駅で別れた二人はそれぞれの想いを胸に帰途に着くのであった。 家に帰った英昭は何時ものように母が作ってくれた夕べる。この時母は息子のそわそわする様子を見逃さなかった。 「英昭、あんた何かいい事でもあったの? 何だか落ち着かないみたいだけど」 女手一つで育てて来た母にとって、我が子の心境を見透かす事ぐらいは朝飯前だったのか。それに対し心中を悟らせまいとする子供の気持ちも滑稽な

    甦るパノラマ  三話 - 人生は花鳥風月
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    suoaei 2021/07/04
  • 甦るパノラマ  二話 - 人生は花鳥風月

    義正はこちらの意見を訊くまでもなくいきなり口を切り出す。 「金貸してくれないか?」 確かに少し無神経な奴ではあったが、会っていきなりの無心とはどういう了見なのだろう。英昭はムカつく気持ちを抑えつつ喋り出す。 「取り合えず俺の話を訊いてくれないか?」 「なら尚更金貸してくれよ、貸してくれたならいくらでも訊いてやるからよ、お前最近調子いいんだろ? 少しぐらいいいじゃねーか」 呆れ返った英昭はこいつをぶん殴ってやろうとも考えたが、余りに卑しいその性格を憐んだ彼は愛想を尽かしたような感じで答えた。 「もういいよ、お前と話にならない、相談しようとした俺が馬鹿だったよ、じゃあな~」 「おい、ちょっと待てよ!」 英昭は一切振り返る事なくその場を後にした。残された義正は未だに英昭の心中が理解出来ず、首を傾げていたのだった。 家に帰った英昭は自分自身をも省みていた。確かに義正とは長い付き合いがあるとはいえ、

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    suoaei 2021/07/03
  • 論破とは?  ~真意を探ろうとしない現代日本社会 - 人生は花鳥風月

    月替わり  未だ感じぬ  夏の色(笑) いやいや、梅雨やコロナの影響も然ることながら、なかなか心の夏は訪れないものです。無論それは自分次第という事なのでしょうけど。 とのかく7月、文月になった訳です。こうなったからには心身ともに綺麗さっぱりリフレッシュして夏を謳歌したい所です^^ という事で(どういう事やねん!?)今日は日頃ネット上などでよく目にするワード 「論破」これについて語って行きたいと思います。 論破とは? その意味は? まずこの論破という言葉の意味ですね。今更なのですがこれは読んで字の如く議論して相手の説を破る事。言い負かす事。とあります。 初めに着目するべきはこの議論なんですよね。議論という言葉が意味する所は、自分の考えを述べたり他人の考えを批評したりして論じ合う事。その論の内容。とあります。 この二つを併せて考えると取り合えずは議論していない事には論破もクソもないという話です

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    suoaei 2021/07/03
  • 甦るパノラマ  一話 - 人生は花鳥風月

    キーンコーンカーンコーン、キーンコーンカーンコーン。 「じゃあまた明日~、さようなら~」 生徒達にとって終業のチャイムほど嬉しいものはなかった。部活動や習い事に勉強、交友やデート、アルバイトや娯楽等。気の赴くままに行動出来る放課後は正に自由を感じるひと時であった。 英昭はこの自由を殊更喜んでいた。自分の趣味に興じる事が出来るからだ。 「おい英昭、今日も行くのか?」 「ああ、サクっと一儲けして来るぜ!」 そう答えた英昭は軽い足取りで颯爽と下校し、一旦家に帰り私服に着替えてから戦地へと赴く。この頃はまだ地元の商店街には数多くの店が軒を連ねていた。その中で英昭がよく通っていた店は三軒あったのだが、今日行く店は既に決めてあった。 パーラーミナト。英昭がこの店を選んだ理由は三つあった。一つ目は最近調子が良い、他の店と比べても比較的相性が良い事。二つ目は18歳未満であってもこの店では未だ追い出された経

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    suoaei 2021/07/02
  • 約定の蜃気楼  最終話 - 人生は花鳥風月

    突如姿を現し、いきなり発言を試みようとするレーテを司祭は制する。 「レーテや、およしなさい」 だが他の長達の寛大な計らいに依って発言を許されたレーテは、携えて来たものを皆の前に出し、こう言いだすのだった。 「まずこの籠に入れられた二匹の蝶と二羽の小鳥をご覧になって下さい」 長達は怪訝そうな顔をしながらもレーテに従い無言のままそれをじーっと見る。次にレーテは籠の扉を開き蝶と鳥を解き放った。すると蝶も鳥も颯爽と飛び立ち、開けていた窓から外に出て行ってしまった。その後も元気よく、勇ましく、優雅に、そして愛らしく飛び回る蝶と鳥の姿は人の心を癒やしてくれる。こうして再度口を開くレーテ。 「どうです、皆様 可愛いでしょ?」 長達は言葉に詰まっていたが、まず畜生道の主である象が口を切った。 「ええ、実に可愛いですね、普段から目にする光景ではありますが、こうして改めて見せられると何やら心が和むようですわ」

    約定の蜃気楼  最終話 - 人生は花鳥風月
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    suoaei 2021/06/30
  • 約定の蜃気楼  十九話 - 人生は花鳥風月

    身体が重い。まるで鉛でも付けられたように重く感じる。湖の奥深くまで沈められた真人の身体はもはや自力では浮かび上がる事は出来ないだろう。こうなれば反省もクソもない。観念した真人は何も抗わず何も考えずに、ただ死を待つ。 すると何も考えていなかった筈の真人の心に直接触れて来る者が現れた。その者はこう語り掛けて来る。 「真人さん、まだこちらに来る時では無いですよ、ほら、この子も貴方と会ってからこんなに元気になってくれて、これも全て貴方のお陰なのです、ありがとうね」 誰だ。子供という事は畜生道で会った象の親子なのか。確かにあの子供の象は最後に振り返って明るく笑っていた。今も元気にしているのだろうか。真人が想いを巡らしている内に次から次に誰かが現れる。 「真人よ、そんな弱気でどうするんじゃ、貴公のお陰でわし達は和睦し不毛な戦を辞める事が出来たんじゃ、その貴公に死なれてはわし達の面目も丸潰れじゃ、分かっ

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    suoaei 2021/06/29
  • 約定の蜃気楼  十八話 - 人生は花鳥風月

    信じていた、尊敬していた人にさえも裏切られる。確かに長い人生に於いては無い話でも無い。でも見聞きした事はあってもいざそれが自分自身に降りかかって来た場合、人はどういう心境になるのだろうか。 今回の事件の犯人は恐らくあいつらだ。悪い勘ほど当たるものだ。そう信じて疑わなかった真人にはもはやこの店主ですら憎らしく思えて来るのだった。 真人は一応夜まで頑張って仕事をやり通した。帰る時にまた一つ訊いてみる。 「店長、あの連中、この近くに住んでいるんですかね?」 店主は少し眉を顰めて答える。 「家までは知らないけど、どうせそうだろうよ、でも何でそこまで気になるんだ? もうこの前の事はいいぞ」 尚も真人は続ける。 「店長、もしあの連中が犯罪者、それも重罪を犯したとすればどう思いますか?」 「何の話か分からないけど、もしそうであっても俺には何の関係も無いよ、確かにあいつらがうちで無銭飲をした事は過去にも

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    suoaei 2021/06/28
  • 約定の蜃気楼  十七話 - 人生は花鳥風月

    真人の叫び声に愕いた誰かが通報したのだろうか。夜半の公園には大勢の警察官が駆け付け、辺りは騒然とした様相を呈して来る。真人も目撃者として聴取を受けた。そんな中、警察達は口々に言う事があった。 「倉科の英さんとうとう仏さんになっちまったか」 「あれだけまともな所で生活するよう言われてたのにな~」 「何でこんな所でホームレスなんかやってたんだか」 これらの事は当然真人も訝しんでいた。あの容姿、話し方、ホテルオーナーの兄である事等、何処から見ても落ちぶれたホームレスには見えない。それが何故。こんな生活を好んでしていたとすればその理由は何なのだろうか。何れにしても倉科さんにはもっともっと話したい事があった。それなのに.......。 真人は警察に心当たりがあると話した。しかし警察は軽くあしらうように訊き流すだけだった。公園に居た他のホームレスが真人に近づき自分のテントへと誘う。この男は倉科さんとは

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    suoaei 2021/06/27
  • 約定の蜃気楼  十六話 - 人生は花鳥風月

    「覚えておけよっ!」 捨て台詞を吐いて逃げるチンピラどもの姿は滑稽であった。結局二人がした事は連中を叩きのめしただけで事の代金を払わせるまでには至らなかった。それより真人が気になった事は瞳の力だった。彼は正直に真正面からその事を訊く。 「今のは何だったんだ? お前そんなに強かったのか?」 瞳はまた溜め息をついてから少し暗な表情で答える。 「そうよ、術を使ったのよ、一応格闘技もしてたんだけどね、あのままじゃ貴方が危ないと思って使ってしまったのよ」 「俺達の力は封じられてる筈じゃなかったのか?」 「貴方も鈍感ね、気付かなかったの? 貴方も力を使ったのよ」 そう言われてみればそうだった。真人は軽く一人を叩きのめし、後の奴等にやられそうになたっとはいえ大した傷も負っていない。格闘技どころか喧嘩の経験も殆どない彼の何処にこんな力があったのか、そう考えると自ずと答えは出て来るような気もする。 「で

    約定の蜃気楼  十六話 - 人生は花鳥風月
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    suoaei 2021/06/26
  • 約定の蜃気楼  十四話 - 人生は花鳥風月

    湖からワープして来たその場所は正に大都会そのものであった。二人の眼前に拡がる夥しいまでの人の群れとビルの群れ。行きかう人々はまるでロボットのように同じような恰好、同じような無表情、同じような歩調で周りには一切目もくれず、無関心を装ったまま歩き続けている。アスファルトの道路とコンクリートで覆い尽くされたビル群は冷たさだけを漂わす。自然を感じさせてくれるものがあるとすれば唯一街路樹ぐらいなものか。 ここが最期の試練である人間道なのか、ここで一体何をしろと言うのか。こればかりは流石の瞳にさえ分からない。このような都会の雑踏を好まない二人は自ずと人気のない場所に移動しようとした。 二人が歩き始めて横断歩道を渡り切った時にまず一件目の事件が起こる。チンピラ風の数人の男達はこの広い歩道でわざわざ二人に近寄って来て行く手を塞ぐ。 「お兄さ~ん、デートですかい? いい女連れてるね~、俺達と一緒に遊ばないか

    約定の蜃気楼  十四話 - 人生は花鳥風月
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    suoaei 2021/06/24