年末恒例の「今年のベスト・・・」のセレクションがたけなわである。ちょっと早いが、私が今年復刊されて一番うれしかった『赤い人』を紹介したい。私をノンフィクション好きにしたのは、吉村昭であると言っても過言ではないほど、どの作品も思い出深いが、明治初期の北海道を舞台にしたこの作品は衝撃的だった。 本書は、わずか300頁を少し超えたほどの文庫である。昨今の小説では普通。長編ミステリーとしては薄いぐらいの厚さしかない。しかしこの重量感はどうだろう。読み始める前と読み合終わったあとでは、手の中にある本が10倍もの重さを持っているように感じないだろうか。これが吉村昭の作品である。そして醍醐味でもあるといえよう。 『赤い人』は明治維新から10年ほど過ぎた、日本が列強諸国に肩を並べたいと強く思いだした時代から話が始まる。当時、北海道開発は明治政府にとって急務のひとつであった。幕末の闘いに敗れた幕府軍の武士た