「世界は一冊の書物に至るために作られている」マラルメはそう喝破した。だが、その「本」は絶えず更新され、挿入され、削除されている。なぜなら、「本」について口を開いた瞬間、読者は語り手すなわち作者となるから。 英訳がamazonのSF/ファンタジー部門で1位らしいが、この傑作は「SF」でも「ファンタジー」でもない……とはいうものの、これがどういう作品か、紹介するのはかなり難しい。 本書を、虚構の島の奇妙な日常を紹介する旅行記として読んでもいいし、その島にただ一つだけある、始まりも終わりもない増殖する「本」に畳み込まれた物語に呑み込まれても面白い。ボルヘスやナボコフや千夜一夜を想起して、ニヤリとほくそ笑んだりゴクリと唾を飲み込んだりもする。あちこちに隠してある、プラトンやフーコーやレイコフたちの哲学のアナロジーを解くのも、めっぽう楽しい。 つまり本書は、物語単品でも、物語の重ね書きとしても、物語