妻のしおりさんによると、実さんはこの数年間、糖尿病と闘っていた。40度を超す発熱で2月に入院し、治療を続けていた。 「ラーメンが食べたいなあ」。2カ月に及ぶ入院中も「ラーメン」のことを考え続けた。「店を開きたい」と、考えたメニューを震える字で書き留め、しおりさんに清書を頼んだ。 63歳の誕生日を迎えた今月4日。佐野さんの強い希望で、病室に「支那そばや」の醬油(しょうゆ)ラーメンを内緒で持ち込んだ。しおりさんは体調を気遣い、スープを薄めていた。実さんは「まずいよ、うすいよ」と言いながら、麺を10本ほどすすった。それが「鬼」と呼ばれた職人が口にした最後のラーメンになった。 しおりさんは「ラーメンしか趣味のない人。最後までこだわっていた」と話した。