李徴はなぜ虎になったのか。 1) 理由もわからず押しつけられ理由もわからず生きていく生き物のさだめ 2) 臆病な自尊心と尊大な羞恥心のため 3) 妻子のことより詩業の方を気にかけていたから 1)は戸外で我が名を呼んだ「だれか」、運命と言っていいのかもしれない。その運命の声に誘われて走っているうちに李徴は虎に変身した。運命という不条理である。ま た、それは芸術家の魂と言い換えてもいいかもしれない。芸術家になるには常人であってはならない。常人の域を超越して発狂した状態に達したとき、真の芸術家になれるのかもしれない。役人としてエリートコースを歩みながら、それに満足できずに詩人になろうとした所にも現れている。 2)は「尊大」と「自尊心」、「臆病」と「羞恥心」が捩じれた状態である。それは 「優越感」と「劣等感」と言い換えてもいいかもしれない。詩人としての才能を人に誇ろうと優越感を抱きながらも、もしか