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内田樹に関するtnakamrのブックマーク (45)

  • サコ先生との対談本の「あとがき」 - 内田樹の研究室

    中央公論新社からウスビ・サコ先生との対談を中心にしたが出ることになった。ゲラはもう戻して、最後に「あとがき」を書いた。 ウスビ・サコ先生との対談を中心にまとめたを出すことになりました。サコ先生は日ではじめての「アフリカ出身でムスリムの学長」です。多様な出自の人々を同胞として迎える心構えにおいて日社会はまだまだ十分な成熟に達していないと僕は思いますけれども、それでもサコ先生のような人が登場してきたこと、サコ先生の言葉に耳を傾ける人がしだいに増えてきたことは、日の未来について僕を少しだけ楽観的な気持ちにさせてくれます。僕が日の未来について「楽観的になる」ということはほとんどないのですけれど、サコ先生は僕にその「ほとんどない」経験をさせてくれる稀有の人です。 こので、僕たちは主に日の学校教育について論じています。学校教育が僕たち二人の「現場」だからです。僕はもう定期的に教壇に立つ

  • 無作法と批評性 - 内田樹の研究室

    ある地方紙に月一連載しているエッセイ。今月はこんな主題だった。 毎日新聞の社説が、ある政党の所属議員たちの相次ぐ不祥事について猛省を求める論説が掲載された。新聞が一政党を名指しして、もっと「常識的に」ふるまうように苦言を呈するというのはかなり例外的なことである。 ルッキズム的発言や経歴詐称の疑いなど、いくつか同党の議員の不祥事が列挙してあった。しかし、この苦言が功を奏して、以後この政党の所属議員が「礼儀正しく」なると思っている人は読者のうちにもたぶん一人もいないと思う。この政党の所属議員たちはこの社会で「良識的」とみなされているふるまいにあえて違背することによってこれまで高いポピュラリティを獲得し、選挙に勝ち続けてきたからである。「無作法である方が、礼儀正しくふるまうより政治的には成功するチャンスが高い」という事実を成功体験として内面化した人たちに今さらマナーを変更する理由はない。 「無作

  • 成長と統治コスト - 内田樹の研究室

    『複雑化の教育論』の中で、高度成長期に最も統治コストが嵩んだことを論じた。統治しにくい状態になると、経済は成長し、文化的発信力も高まる。だから今の日のように「統治しやすい状態」になると、経済は停滞し、文化も力を失う。その「さわり」のところを少しだけ抜き書きしておく。 この30年間は中産階級の没落と、労働者階級の貧困化として進行しました。それは当然なんです。統治コストの削減は必ず「中産階級の空洞化」をめざすからです。これは世界中あらゆる国の出来事に妥当します。 近代史をひもとけばわかりますけれど、中産階級が勃興すると、民主化闘争が起きます。市民たちがある程度経済的に豊かになると、権利意識が芽生えてくる。言論の自由、思想信教の自由、政治的自由を求めるようになる。やがて、市民革命が起きて、近代市民社会が成立する。これは決まったコースなわけです。王政や帝政に替わって民主制が登場してくる。 革命と

  • 若者の質問へのご返事 - 内田樹の研究室

    私の読者という若い方から手紙が来た。ツイッターで、ある政治学者のツイートをRTしたら、知り合いから「若い人は政治的発言をするな。党派的な発言をすると気分を悪くする人もいるから、そういう人に配慮しなさい。政治的発言をしたければ、もっと勉強してからしなさい」というお叱りを受けたそうである。 どう対応すべきでしょうかというお訊ねだったので、次のような手紙を書き送った。 こんにちは。内田樹です。 お訊ねの件ですが、直接ご返事をする前に、少し原則的なことを確認したいと思います。 僕は言論の自由を大切にする立場から、基的にはどんなトピックについても、どなたでもご自由にご発言くださいという立場です。 僕が言論の自由を大切にするのは「言論の場の判定力」を信じているからです。長期的かつ集団的には、言論の場において下される真偽理非の判定はだいたい適切である。僕はそう信じています。 ですから、僕が自分の意見を

    tnakamr
    tnakamr 2020/05/17
     賛成だが難しい。よく怒られる
  • 「街場の日韓論」まえがき - 内田樹の研究室

    みなさん、こんにちは。内田樹です。今回は「日韓関係」をテーマにしてアンソロジーを編みました。その趣旨につきましては、いつものように寄稿者への「寄稿ご依頼」の文章を掲げておきたいと思います。 みなさん、こんにちは。内田樹です。 僕から「みなさん」宛てのメールをこれまで受け取ったことのあるかたはただちにご理解頂けたと思いますけれど、今回もまたアンソロジーへの寄稿のご依頼です。 主題は「日韓関係」です。これがたぶんいまの日において最も喫緊な論争的主題だと思います。この論件について、みなさんのお考えを伺いたいと思います。 いま日韓関係は僕が知る限り過去最悪です。もっと関係が悪かった時代もあるいは過去のどこかの時点にはあったのかも知れませんけれど、僕の記憶する限りはいまが最悪です。どうして「こんなこと」になったのか。それについて僕自身は誰からも納得のゆく説明を聞いた覚えがありません。 メディアの報

  • 『サル化する世界』についてのインタビュー - 内田樹の研究室

    いくつかのメディアから新刊『サル化する世界』についてのインタビューがあったので、まとめて再録。 「サル化する世界」というタイトルに込めた思いを教えてください。 「サル化」とは、「朝三暮四」に出て来るサルのように、現在の自分と未来の自分の間に自己同一性を保持できない病態のことです。 もともとヒトは時間意識をゆっくりと拡大することで、他の霊長類から分かれて進化を遂げて来ました。そして、今からおよそ2500年くらい前に、四大文明の発祥地で「世界の起源」と「世界の終わり」という概念を持つところまでたどりつきました。広々とした時間意を持つことができた。そのおかげで人類は宗教を持つことができたし、歴史や物語を持つこともできました。 中国の春秋戦国時代に「矛盾」「守株待兎」「刻舟求剣」「鼓腹撃壌」といった「時間が経過しても自己は同一的である。自己は同一のつもりでも時間は流れる」ということがうまく理解でき

  • 教育についての「いつもと同じ話」 - 内田樹の研究室

    ある媒体に教育論を寄稿した。あまり人目に触れることのないマイナーな媒体なので、ブログに採録しておく。 そちらの編集部から教育について寄稿をお願いされたので、「いつも同じ話をしているので、改めて書き下ろすようなことがありません」とお断りしたら、「ありものの使い回しでもいいです」ということだったので引き受けた。でも、さすがに「ありものの使い回し」で原稿料頂くのは良心が咎めて、結局全部書き下ろしてしまった・・・でも、書いている人間は同一人物なので、中身は「いつもと同じ話」である。 教育についての個人的意見を記す。 もう20年近くほとんど同じことを繰り返し訴えている。20年近くほとんど同じことを繰り返し訴えなければならないのは、私の主張が同時代日人の同意を得ることができないからである。だから、以下に私が書くのは「日社会のマジョリティによって受け容れられていない主張」である。 私が言い続けてきた

  • Onepieceの組織論 - 内田樹の研究室

    集英社に頼まれて、『Onepiece』についての解説を三編書いた。2011年に二つ、2013年に1つ。これから養老孟司先生とマンガ論のつづきを京都ですることになっているので、「予習」のつもりで自分が7年前に書いた解説を読み返してみた。なかなか面白かったので、再録。 『Onepiece』の解説を書く仕事もこれで3回目となりました。今回は61巻から70巻までの物語から撰した「名言」集に解説をつける仕事を承りました。マンガの吹き出しの台詞だけを集めたアンソロジーに解説を付すというのも、考えてみると不思議な仕事ですね。でも、そういう例外的な要請が生じるのは、『Onepiece』の登場人物たちが意を決してきっぱりと口にする言葉がマンガとしては例外的に「強い言葉」だからでしょう。 まず、「強い言葉」とはどういう言葉なのか。それについて少し考えてみたいと思います。 僕は武道と能楽を稽古していますが、その

  • 「週刊ポスト」問題について - 内田樹の研究室

    週刊ポスト問題についていくつものメディアから電話で取材を受けた。 どれにも同じことを言っているのだけれど、切り取り方はそれぞれである。 同じことを繰り返すのも面倒なので、ブログに「コメント」を上げておく。 ネット上のテクストはすべてコピーフリーなので、ご自由に切り取って使ってくださって結構である。複製許諾も不要。 『週刊ポスト』9月13日号が「『嫌韓』ではなく『断韓』だ 韓国なんて要らない」というタイトルで韓国批判記事を掲載した。新聞に広告が載ると、直後から厳しい批判の声が上がった。 同誌にリレーコラム連載中の作家の深沢潮さんはご両親が在日韓国人だが、執筆拒否を宣言した。続いて、作家の柳美里さんも韓国籍で日に暮らしているが、「日で暮らす韓国・朝鮮籍の子どもたち、日国籍を有しているが朝鮮半島にルーツを持つ人たちが、この新聞広告を目にして何を感じるか、想像してみなかったのだろうか?」と批

  • 大学の株式会社化について - 内田樹の研究室

    科学技術白書がようやく日の学術的発信力の低下を認めた。 それについて『サンデー毎日』に所見を寄稿した。もう2週間前なので、採録。 先日発表された科学技術白書がようやく「わが国の国際的な地位の趨勢は低下していると言わざるを得ない」ことを認めた。 「引用回数の多い論文の国際比較で日は10年前の4位から9位に転落した。論文数も減って2位から4位になったが、4倍に増えた中国はじめ主要国は軒並み増加している。」(毎日新聞、6月14日) 各国の政府の科学技術関係予算の伸び具合を00年と比べると、中国が13.48倍(2016年)、韓国が5.1倍(同)、日は1.15倍(2018年)。博士課程への進学者はピークの03年度を100とすると2016年度は83。海外派遣研究者の数も00年を100とすると2015年度で57にまで減った。注目度の高い研究分野への参画度合い(14年)では、米国91%、英国63%、

  • 韓国のネットメディアからのインタビュー - 内田樹の研究室

    5月の中頃に韓国の「ニューストップ」というネットメディアからメールで取材があった。 なかなか答えにくい質問だったけれど、とにかくこんなふうにお答えした。月末に返信したので、今日あたり韓国内で配信されたのではないかと思う。 南北対話、米朝対話の進行と安倍政権の動きについてのお訊ねであった。 (1)最近の南北首脳会談の板門店宣言で、これまで外部(具体的には北朝鮮)の脅威から日を守るために、「日を取り戻す」(戦後レジームからの脱却 = 普通国家化、憲法9条改悪)という安倍総理のプロパガンダも国民に受け入れられにくくなるものと考えられますが、いかがでしょうか。 北朝鮮の脅威を根拠に、改憲や軍事力増強を正当化してきた安倍政権のプロパガンダそのものはこれで説得力を失います。しかし、安倍政権を支持しているコアな層(日の有権の30%強)は別に合理的根拠に基づいて政権を支持しているわけではではありませ

  • 言葉の生成について - 内田樹の研究室

    もう2年前になるけれど、大阪府の国語科教員たちの研修会に呼ばれて、国語教育について講演をしたことがあった。 そのことを伝え聞いた国語科の先生から「どこで読めますか」と訊かれたので、「お読みになりたいのでしたら、ブログに上げておきます」とお答えした。いずれ晶文社から出る講演録に採録されると思うけれども、お急ぎの方はこちらをどうぞ。 「言葉の生成について」 学期末のお忙しいところ、かくもご多数お集まりいただき、ありがとうございます。ご紹介いただいたように、僕の書いた文章は、入試問題や教科書に出たりしていますが、人間、一回見ると「こういうこと言いそうなやつだ」というのがだいたい分かります(笑)。 僕はエマニュエル・レヴィナスのを何冊か訳していたのですが、1987年にご人にはじめてお会いしました。レヴィナスの、それまでに一生懸命訳してはきたんですけれども、どうも自分の訳文に確信が持てない。こ

  • 直言3月号「韓国の教育と日本のメディア」 - 内田樹の研究室

    山形新聞に隔月連載しているエッセイの3月分。今回は韓国教育改革について書いた。 韓国に毎年講演旅行に出かけている。ご存じないと思うけれど、私の著作は教育論を中心に十数冊が韓国語訳されていて、教育関係者に熱心な読者が多い。ここ三年ほどの招聘元は韓国教育監である。見慣れない文字列だと思うが、日とは教育委員会制度が違っていて、韓国は全国が17の教育区に分割されていて、それぞれの区での教育責任者である教育監は住民投票で選ばれているのである。 数年前にこの制度が導入された結果、多くの教育区で教員出身の教育監が誕生した。彼らは自身の教員経験を踏まえて、できるだけ教員たちを管理しないで、その創意工夫に現場を委ねるという開明的な方針を採った。その結果、日ではまず見ることのできない自由な校風の公立学校が韓国の各地に続々と誕生している。 そういう歴史的文脈の中で、私のような人間が各地の教育監に公式に招

  • 人口減社会に向けて - 内田樹の研究室

    農業新聞の「論点」というコラムに定期的に寄稿している。2月は「人口減社会」について書いた。あまり普通の人の読まない媒体なので、ブログに再録。 「人口減社会」についての論集の編者を依頼された。21世紀末の人口は中位推計で6000万人を切る。今から80年間で日の人口がおよそ半減するのである。それがどのような社会的変動をもたらすのか予測することは難しい。いくつかの産業分野が消滅すること、いくつかの地域が無住の地になることくらいしかわからない。起こり得る事態について想像力を発揮して、それぞれについて対策を立てることは政府の大切な仕事だと私は思うが、驚くべきことに人口減についてどう対処すべきかについての議論はまだほとんど始まっていない。だからこそ、私のような素人が人口減社会の未来予測についての論集の編者に指名されるというような不思議なことが起きるのである。 先日毎日新聞が専門家に人口減について

  • 時間意識と知性 - 内田樹の研究室

    ポートアイランドの理化学研究所というところに招かれて、自然科学の専門家たちを前にしてお話をしてきた。せっかくの機会なので、人間の知性とは何かという根源的なテーマを選んで70分ほど「ごった煮」的なレクチャーをした。聴衆のリアクションがとてもよかったので、つい暴走して、いろいろふだん言わないようなことまで口走ったので、備忘のためにここに記しておく。ものすごく長い話なので、ここに掲げたのはその半分くらいである。 『ブレードランナー2049』は「人間とレプリカントを識別する指標は何か?」という問いをめぐる物語である。それは「最終的に人間の人間性を担保するものは何か?」という問いに置き換えることができる。 人間性とは突き詰めて言えば何なのか?それ以外のすべての条件が人間と同じである人工物を作り得たとしても、それだけは与えることができないものがあるとしたら、それは何か? これは古い問いである。おそらく

  • こちらは「サンデー毎日」没原稿 - 内田樹の研究室

    こちらは「サンデー毎日」の没原稿。 9月末日締め切りで、9月19日に書き上げてのんびりしていたら、解散、小池新党、民進党解党、希望維新連携、立憲民主党結党・・・と文字通り政局が日替わり。おかげで「北朝鮮と安倍政権」という論の枠組み自体にまったくニュースとしての鮮度がなくなってしまった(北朝鮮のミサイル攻撃が明日にでもあるぞ、というあの官邸の煽りは何だったんだろう)。 でもまあ、書いたわけなので、このまま筐底に腐らせるよりは日の眼を見せてあげようということで、ブログにて公開。 北朝鮮の核実験とミサイル発射によって東アジアの軍事的情勢が緊張度を増している。「米朝もし戦わば」というようなシミュレーションを妙にうれしげに語っている専門家たちがいる。戦争が始まるというのがそんなにわくわくすることなのだろうか。日の国土にミサイルが着弾して多くの死傷者が出たり、稼働中の原発が被弾したりするリスクを考え

  • 北星学園での講演 - 内田樹の研究室

    7月22日に北星学園での研修会で講演した。その講演録の文字起こしが終わった。学園の内部資料として配布されるはずだけれど、教育についての持論を展開しているうちに、だんだん加熱してきて、ぷりぷり怒り出しているところが面白かったので、ここに公開することにする。 おはようございます。ご紹介いただきました内田です。 ご紹介の通り、私は神戸女学院大学というミッションスクールの女子大に21年間勤務しておりました。こういう感じの研修会、前任校では「リトリート」というのが毎年ございました。久しぶりに今日、讃美歌を歌って、チャプレンのお祈りをいただいてから、こういう集まりを持つ機会を持ち、たいへんに懐かしい気持ちがいたしました。 リトリートというのは、ミッション系の学校によくありますが、文字通りリトリートです。引きこもりです。世俗の活動をいったん停止して、沈思黙考する時間を持つ。そういう意味だとチャプレンから

  • 神奈川新聞のインタビュー - 内田樹の研究室

    憲法記念日に神奈川新聞にロングインタビューが掲載された。いつもの話ではあるけれど、これを愚直に繰り返す以外に悪政をい止める方途を思いつかない。 反骨は立ち上がる いま日で起きている絶望的なまでの「公人の劣化」は何に由来するのか。結論から言ってしまえば「日アメリカの属国でありながら、日人がその事実を否認している」という事実に由来する。日社会に蔓延している「異常な事態」の多くはそれによって説明可能である。 ニーチェによれば、弱者であるがゆえに欲望の実現を阻まれた者が、その不能と断念を、あたかもおのれの意思に基づく主体的な決断であるかのようにふるまうとき、人は「奴隷」になる。「主人の眼でものを見るようになった奴隷」が真の奴隷である。彼には自由人になるチャンスが訪れないからである。日アメリカの属国であり、国家主権を損なわれているが、その事実を他国による強制ではなく、「おのれの意思に

  • 大学のグローバル化が日本を滅ぼす - 内田樹の研究室

    今年度の『大学ランキング』の「グローバル化」の項目を執筆した。 こんな挑発的な文章を載せてくれた『大学ランキング』の小林さんの剛胆にまず感謝したい。でも、ここに書かれていることは、全大学人の70%くらいは支持してくれると思う。 日の大学の価値がグローバル化の進度によって決められようとしていますが、これはすでに相当数の現場の教員が実感しているとおり、大学教育の空洞化をもたらすものです。 グローバル化の指標は、①留学生派遣数、②外国人留学生受け入れ数、③外国人教員数、④英語による授業数、⑤海外提携校数、⑥TOEFL目標スコアなどすべて数値的に示されるものです。これを足し算すれば、電卓一つで日中の750大学が「グローバル度進捗ランキング」で1位から750位まで格付けが可能となります。 グローバル化度と大学の教育研究の質の間にどのような相関があるのか、私は知りません。その間に相関関係があるとい

  • 日本はこれからどこへ行くのか - 内田樹の研究室

    先日若い研究者たちと話したときに、自分の立ち位置はどこかということが話題になった。私は自分の立ち位置を「大風呂敷を広げること」だと思うと言った。「屋」、人はそれぞれ自分の得意なスタイルで研究すればよいのではないかと申し上げた。 私は若いときからいつも「ウチダの論文は、話は面白いが論証が雑だ」と批判され続けてきた。その通りなので反論したことがない。でも、「面白い話」を思いつくと、どうしても黙っていることができないのである。 助手の頃、フランスの文芸理論家モーリス・ブランショがナチ占領下のパリで出した『文学はいかにして可能か?』という文体論を「検閲を逃れるために暗号で書いた自らの30年代の政治活動に対する総括」だという仮説から逐語的に読み直すという大風呂敷論文を書いたことがあった。学界では「バカなことを言うな」と一笑に付されたが、その後ブランショ自身が「あれは暗号で書いた政治論文である」