『万葉集』を読み、のこし続けてきた人たちがいたから 新元号「令和」と万葉集と漢文の素敵な関係 三宅香帆 新元号の出典が『萬葉集』である、とのニュースが入ってからというもの、にわかに『萬葉集』が脚光を浴びている。なんと『萬葉集』関連書籍がベストセラーとしてアマゾンのランキング一位に躍り出る日が来ようとは。本屋に行けば、『萬葉集』コーナーがかがやかしげに掲げられている。いや〜こんな光景を生きてるうちに目にすることができるなんて〜。と、私は思わずにやけてしまう。 なんでにやけるかって、私はつい先日まで大学院で『萬葉集』の研究をしていたのだけど、当時私が他分野の学生に向かって「専門は萬葉集です!」と自己紹介すると、ほとんどの場合に返ってくるのは「な、なぜそんなマイナーな分野を......」とでも言いたげな苦笑だったからだ。 『萬葉集』といえば古典文学のなかではメジャーなほう! と私は思っていたのだ
多層的な情報複合体 「書物」としての『万葉集』は、単純に歌を集めたものではありません。『万葉集』の紙面は、平安時代以降の歌集と比べると、かなり複雑なものとなっています。 【1】巻子本(巻物)としてのフォーマット 【2】歌集としてのフォーマット………これには、まず歌を分類する項目があります。次に、歌については、歌のみが収録されるのではなく、漢文で記された、歌に関わる情報も添えられます。しかも、その書式は、歌によって、さまざまです。 【3】注記………原資料からの注記、編者による注記、さらに後人(奈良時代、場合によって平安初期にまで及ぶ。複数の人々)による注記が、多様な形式で書き込まれています。 『万葉集』は、多層的な情報複合体となっています。 以下、『万葉集』原本の紙面に即して、簡単な解説を加えます。(上の写真参照) ①内題(巻首題)【1】 ・中国文化圏における、正式な「書物」である巻子本では
多層的な情報複合体 「書物」としての『万葉集』は、単純に歌を集めたものではありません。『万葉集』の紙面は、平安時代以降の歌集と比べると、かなり複雑なものとなっています。 【1】巻子本(巻物)としてのフォーマット 【2】歌集としてのフォーマット………これには、まず歌を分類する項目があります。次に、歌については、歌のみが収録されるのではなく、漢文で記された、歌に関わる情報も添えられます。しかも、その書式は、歌によって、さまざまです。 【3】注記………原資料からの注記、編者による注記、さらに後人(奈良時代、場合によって平安初期にまで及ぶ。複数の人々)による注記が、多様な形式で書き込まれています。 『万葉集』は、多層的な情報複合体となっています。 以下、『万葉集』原本の紙面に即して、簡単な解説を加えます。(上の写真参照) ①内題(巻首題)【1】 ・中国文化圏における、正式な「書物」である巻子本では
理由の一つは、全体が漢文の本として作られているからです。だいたい万葉集という題名そのものが漢文的です。 分類の、雜歌、相聞、挽歌というのも漢文由来です。 歌の部分だけは、漢文では書けないので(漢詩になってしまう)、万葉仮名を交えたり、万葉仮名だけで書いたりしました。 理由の二つは、当時は、題詞のような内容を充分に表すための日本語の散文が無かったからです。宣命、祝詞などにかろうじて散文らしいものがありますが、とうてい実用になるものではありません。漢文で書いた方が正確にかつ短く書けるのです。 古今集以下は、書名だけは相変わらず漢文ですが、中味はすっかり日本化しています。仮名の発明によって、散文がどんどん書けるようになったからです。題名も、「伊勢物語」など「いせものがたり」ですから、見た目は漢字ばかりでも、よめば完全な日本語です。
by ynng • 2018年7月10日 • 万葉集を読む(5)~山上憶良「日本挽歌 巻五 794~799番歌」(4) はコメントを受け付けていません 前回は「色々な意味での様々なイレギュラーの背景には、これに先立つ「前置漢文」に注目する必要があると言うことなのです」として「続く」としたのですが、よく考えてみると「前置漢文」と言われても大多数の人には何のことか全く分からないので(私も講座に参加して始めて知りました^^;)、それってとても不親切な終わり方だったと反省をしています。 「前置漢文」とは、憶良の「日本挽歌」の前に配置されている「漢文」のことです。 盖聞 四生起滅方夢皆空 三界漂流喩環不息 所以維摩大士在于方丈 有懐染疾之患 釋迦能仁坐於雙林 無免泥洹之苦 故知 二聖至極不能拂力負之尋至 三千世界誰能逃黒闇之捜来 二鼠競走而度目之鳥旦飛 四蛇争侵而過隙之駒夕走 嗟乎痛哉 紅顏共三従長
万葉集には和歌に付けられた漢文が適切に読めなければ、その歌をきちんと解釈出来ない歌があります。最初に紹介する大伴池主が大伴家持に贈った歌四首もそうです。問題は、鎌倉時代から昭和時代までは、基本的に和歌の前に置かれた解説文となる、いわゆる、前置漢文の序文などは万葉集の和歌の鑑賞の時には考慮しない伝統があり、そのため、漢文と和歌とを一体として扱うことはしませんでした。加えて長歌や旋頭歌などは古今和歌集の短歌とは違うスタイルですので、それを和歌として適切に評価はしませんでした。また、和歌の鑑賞では古今和歌集以降の短歌だけを和歌として鑑賞するスタイルであり、同時に短歌一首ごとに単独にそれを鑑賞し、数首が一つのテーマでまとまった歌群のような形で一つの歌群として鑑賞することもしません。最大の可能性が古今和歌集でも扱われる相聞歌について、それを相聞の和歌として二首を一組として鑑賞します。時代として、古今
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「新元号、出典は『萬葉集』! だけどその元ネタは漢詩!」 ……という噂がインターネットを騒がせていたことを、ご存知だろうか。 新元号が決まったのを機に、なんと『萬葉集』が脚光を浴びている。私は大学院で『萬葉集』を研究していたのだけど、まさか自分の生きてるうちに『萬葉集』がアマゾンで売り切れになる日が来ることになるとは思わず、驚きっぱなしである。ちなみに社会へ出たのはつい先日、こないだまで一日一首は奈良時代の歌を読む生活をしていた(念のため注をつけておくと、読む、であって、詠む、ではない)。 元号が発表される以前は、『萬葉集』を研究すればするほど、大学院の外で「『萬葉集』を研究していてね……」と言った時の、みんなの反応に戸惑った。みなさん、『萬葉集』と聞けば「ああ、古典は苦手でね……」と苦虫を噛み潰したよーなお顔をされ、「和歌、むつかしかった……」と苦笑するのである。そのたび私は歯がゆかった
楽しく自由に万葉集を楽しんでいるブログです。 初めてのお人でも、それなりのお人でも、楽しめると思います。 沈痾自哀の文 漢文だけの作品です。複雑系の万葉集でも一際異彩を放つ作品です。そのためか、この沈痾自哀の文には、万葉集では歌番号が与えられていません。 御存じのように山上憶良は、当時の最高の学者であり知識人です。その山上憶良が創った漢文です。この漢文には注釈が本文と同じ扱いで載せられていますが、さて、どのような人物が注釈を付けたのでしょうか。少なくとも、その内容から注釈を行った人物にとって、漢書・魏書・晋書・仏教・儒教・神仙道教・文選・詩経などは自在であったと思われます。実に非常な人ですし、その原文を創った人である山上憶良もまた非常な人です。 世に非常な人が稀であることを考えると、推定に憶測を交えて、注釈を行った人物とは、天平五年三月一日頃に山上憶良の自宅を訪ねて行った遣唐使大使丹比広成
『万葉集』には定訓を持たない歌がある。その中で最も有名な難訓歌が、額田王の九番歌だ。伊丹末雄の『万葉集難訓歌考』に「古来あまりにも名高い難訓歌で、千年に及ぶ幾多の学者の精密真摯なる研究にもかかわらず、今なお依然として明確には読み解けない」とあるように、大きな謎を残したまま今日に至っている。しかし、謎が深いほど解きたくなるのが人の性。千年以上の間、『万葉集』の巻一、早くも九番目にぶつかるこの歌は、突破したくても出来ない壁のような存在となっている。 九番歌は次のような題詞を持つ。 幸于紀温泉之時額田王作歌 これは「紀温泉に幸(いでまし)し時、額田王の作れる歌」と訓む。斉明天皇の紀温泉行幸の際、額田王が作った歌であることを伝えるものだ。次に、肝心の歌を記す。 莫囂圓隣之 大相七兄爪湯気 吾瀬子之 射立為兼 五可新何本 これが俗に「莫囂圓隣歌(ばくごうえんりんか。莫囂円隣歌とも書く)」と呼ばれる謎
奈良時代に古事記を編さんした太安万侶(おおのやすまろ)の墓で見つかった墓誌に、これまでに確認されている名前などの文字に沿って、同じ内容を記した別の文字が毛筆で書かれていたことが分かり、誰が何のために書いたのか議論になりそうです。 太安万侶は、今からちょうど1300年前の西暦712年に古事記を完成させた奈良時代の役人で、昭和54年に奈良市内で見つかった墓には、縦およそ30センチ、横6センチの銅製の板で作られた墓誌が残されていました。 この墓誌は、表面に「太朝臣安萬侶(おおの・あそん・やすまろ)」という名前や埋葬した日付などの41文字が2行にわたって刻まれ、国の重要文化財に指定されています。 古事記編さん1300年に合わせて、奈良県立橿原考古学研究所がレーザー光線で形を精密に測定する装置を使って、改めて調査したところ、刻まれた文字のすぐ左脇に、表面がさびた状態で、極めて細い文字の痕跡が残ってい
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