二か月ほど前、江藤淳が「山川方夫と私」において、山川の死後、彼をモデルにした小説を発表し彼を無能の編集者として揶揄したYという流行作家の卑劣さを告発している、と書いた(id:qfwfq:20080127)。それにたいするコメントで、その小説は「シバザクラ」であるとの御教示を得、さっそく「シバザクラ」を読んでみた。「シバザクラ」は山口瞳の短篇集『マジメ人間』に収録されている(角川文庫)。ざっと粗筋をたどると―― 1 小説は「私」の一人称の語りで、私が妻と息子と甥とをつれて散歩に出かける場面から始まる。私はある家の生垣の下に咲いている花に目をとめる。雑草にちかい草で桜のような花をつけるシバザクラで、以前は好んでいたがいまはそうではない。植木屋で椿と木蓮とを買い、妻がシバザクラを指してこれも買わないのと尋ねると、私はいらないと拒絶する。トンカツ屋に入っても私はシバザクラのことを考えつづけている。