2004年のある7月の朝。新聞の片隅に「カルロス・クライバー死去」という7行の短い記事を読み、全身から力が抜けてしゃがみ込んだ。1983年の秋頃、当時高校2年の僕はたまたま立ち寄ったレコード屋で、外国人の指揮者が歓喜の表情で指揮棒を振っているポスターを見た。宣伝コピーは『ここでカルロスのタクトが火を噴いた!』。人生でこれほどの笑顔を見たことがなく、僕はポスターの前に立ち尽くした。「クラシックは人間にこんな表情をさせる音楽なのか!」と度肝を抜かれた。“自分は一生のうちに何度こんな笑顔をできるだろう?”、 クラシック・ファンになればこんな体験が待っているのかと、一枚のレコード・ジャケットをきっかけに縁遠かったクラシックを聴き始めた。お気に入りの曲からクラシックの世界に入っていくのが普通で、写真をきっかけにクラシックを聴き出す例はあまりないと思う。 そして…クライバーさんの笑顔は真実だった!それ