これまで以上に北野監督らしい作品であると同時に、これまでになく北野映画らしくない。矛盾した言い回しになるが、北野監督の通算14本目となる『アキレスと亀』は、そう表現するしかない。北野映画らしく濃厚な血の匂いで彩られながらも、難解さは影を潜め、明快なエンディングが待ち受けている。 『TAKESHIS’』『監督・ばんざい!』と2作続けて映画を破壊する行為に取り組んできた北野監督の内面に、何か変化が起きているのか? 「アートは麻薬」「数学者になるのが夢だった」と語る北野監督の言葉からは、“天才”の人生観がリアルにうかがえた。 “世界のキタノ”を前にしておこがましいと思いますが、『アキレスと亀』は非常に映画らしい映画ですね。 「うん(笑)。普段から撮影は順撮りで始めるんだけど、いい役者がいたり、いいシーンが撮れると、ストーリーをねじ曲げて違う方向に持っていっちゃうんだ。でも今回は、台本が主人公の少