ローエの都グリューネキルヒェンにある城にいる者たちは、いつものごとく淡々とみずからの仕事をこなしていた。 といっても出撃の準備であるのだが、北の隣国ゴールなどとの争いに慣れた家臣らは、特にこころを乱すことはない――のだが、珍奇なことに、いつもはまるでやる気のないひとりの人物が朝からずっとあわてふためいていた。 「まだ出られないのか!」 書類の整理をしていたニーナが、振り向きもせずに答えた。 「まだ準備が整ってないんだから、しょうがないじゃないですか」 「だから、それを早くしろって言ってんだろ」 「じゃあ、ライマル様も手伝ってください。城の者はきちんと働いております、いつものとおり(、、、、、、、)」 「もっと急げって! だいたい、相手の動きが予想よりずっと早いじゃねえか」 「どうも焦っているようです、なぜかはわかりませんが」 「平気な顔して語ってるんじゃねえ! これは、とんでもないことにな
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