日本海に面した島根県西部、江津(ごうつ)市の中心部から、車で約15分。民家もまばらな山あいに臨済宗東福寺派の清泰寺(せいたいじ)はある。 本堂内の二重扉を井下智泉(いのしたちせん)住職(70)に開けてもらうと、黒みがかったねずみ色の阿弥陀如来像(高さ90センチ)が目に飛び込んできた。両脇に並ぶ木造の観音、勢至(せいし)両菩薩(ぼさつ)とは異質だが、ふっくらとした表情や印を結ぶ手の指先はリアル。鎌倉時代に作られた県指定文化財の本尊そっくりに、3Dプリンターで作られたレプリカだ。 寺は三十数年前、先代住職が引退し、無人に。市内の別の寺の井下さんが住職を兼務する。1956年に約3万7千人を数えた市の人口は約3分の2まで減少。寺の檀家(だんか)も戦前の約50世帯から約20世帯に減り、高齢化も進んで寺の維持が困難になった。各地で仏像の盗難事件が報じられるたび、「大丈夫か」と心配する声が上がっていたと