航行中の飛行機の中のような閉じた空間では、「お客様の中にお医者様はいらっしゃいますか?」的な展開がときどき生じる。あるいは、たまたま乗り合わせた医師が事態を把握し、乗務員が呼びかける前に名乗り出ることもある。本件は、どちらかというと後者に似ているのだが、具合が悪くなったのは乗客の1人ではなく、みんなが乗っている旅客機だった。 機長は、機体に技術的トラブルが発見されたため、出発が8時間ほど遅れる旨を乗客にアナウンスする。すると、1人の乗客男性が名乗り出る。「有資格の航空機エンジニアです。私になら修理できるかもしれません」 むろん、男性の言葉をその場で鵜呑みにして、機体の修理という人命にかかわる仕事を任せるわけにはいかない。有資格の航空機エンジニアと名乗る乗客は、自分の手荷物の中からエンジニアライセンスを取り出して、機長らに見せた。 ライセンスには確かに彼が告げたとおりの氏名が記されており、彼