ブックマーク / note.com/idea_jam_you46 (49)

  • 鳳凰落とし #29|松田悠士郎

    嶋野は顔を覆っていた不織布マスクをむしり取ってジャケットのポケットへ突っ込むと、煙草を咥えて火を点けた。 「そう言えば、あの土橋ってオッサン、放っといていいんですか?」 ハンドルを握りながら質問する菅原に、嶋野は主流煙を撒き散らしつつ答えた。 「下手にサツに喋ったら自分の身も危ないって事くらい判るだろ」 「ま〜それ以前に契約違反なんで俺等でシメますけどね〜」 半ばおどけた調子で話す菅原を尻目に、嶋野は腰からガバメントを取り出すと銃把の中からマガジンを抜き、残っていた六発の弾丸を全て出して再び銃把に納めた。弾丸をスラックスのポケットに入れると、ガバメントを菅原へ突き出した。 「ダッシュボードに入れろ」 「ウッス」 頷いた菅原が、前を向いたまま左手でガバメントを受け取り、ダッシュボードにしまった。 煙草を吸い終えた嶋野は、スマートフォンを取り出して電話をかけ始めた。相手は高松だった。 『もしも

    鳳凰落とし #29|松田悠士郎
    IDEA_JAM_U46
    IDEA_JAM_U46 2023/09/10
    スクラップ工場って、何か殺伐としたイメージ。昔「西部警察」等でアクションシーン撮ってた所為か?
  • 鳳凰落とし #28|松田悠士郎

    数日後、嶋野は通勤時間帯の満員電車に乗り込んでいた。先日、『鳳凰教』部から脱出した後に手に入れた真新しいジャケットを着て、その下には百円ショップで調達したワイシャツとネクタイを着けていた。下半身も、前職時代に購入して以来余り履いていなかったスラックスで固めている。頭にはソフト帽を被り、顔を不織布マスクで覆っていた。 『東急大井町線をご利用頂きまして、ありがとうございます。次は、二子玉川、二子玉川です。お出口は左側です』 車内アナウンスが聞こえると、すし詰め状態の乗客達が一斉に蠢いた。嶋野も合わせて身体を出口に向ける。 耳障りな金属音を立てて列車が停まり、一拍置いて降車側の扉が開いた。途端に、狭い車内に凝縮されていた乗客達が一気にホームへ吐き出された。その波に逆らわずに、嶋野もホームへ降りて改札口へと歩を進めた。行列が出来ているエスカレーターを横目に、中央の階段を早足で降りると、徐々に外の

    鳳凰落とし #28|松田悠士郎
    IDEA_JAM_U46
    IDEA_JAM_U46 2023/09/03
    しかし、AIイラスト生成アプリが作る画像ってのは何処か変だよな。
  • 鳳凰落とし #27|松田悠士郎

    嶋野は目の前に突きつけられた銃口に対して眉ひとつ動かさず、組んでいた右脚を素早く跳ね上げて土橋の右手首を蹴りつけた。 「ぎゃっ」 痰が絡んだ様な悲鳴を上げて、土橋が拳銃を取り落とした。嶋野は上げた右脚の踵で開放されていたアタッシュケースを閉めると、ソファから腰を上げて拳銃を拾った。撃鉄が起こされていない事を確認して鼻を鳴らすと、右手を押さえて苦悶の表情を浮かべる土橋のこめかみに銃口を押し当てた。途端に土橋が息を飲む。 「ひぃっ」 「素人が扱うな」 低い声で警告するなり、嶋野は銃の撃鉄を起こした。シリンダーの回る音に、土橋の顔が引きつった。 「はぁっ、た、た、助けて」 唇を震わせて命乞いをする土橋を冷ややかに見つめると、嶋野は銃口を土橋に向けたまま対面のソファに戻って告げた。 「行け。帰ったら先生に伝えろ、しくじりましたってな」 土橋は顔の三分の一程を占める程大きく目を見開いて嶋野を見返しな

    鳳凰落とし #27|松田悠士郎
    IDEA_JAM_U46
    IDEA_JAM_U46 2023/08/27
    磯川って名字、判る人はニヤッとしてください。
  • 鳳凰落とし #26|松田悠士郎

    サイレンサーによって抑制された銃声は、辛うじて嶋野の耳にのみ入って来た。 ガバメントの銃口からサイレンサーの中を通って射出された四十五口径の弾丸は、やや前方に突き出されていた大鳥の後頭部に打ち込まれ、突き抜けずに頭の中で留まった。衝撃で大鳥の顎が大きく開いたかと思うと、ゆっくり前へ傾いだ。 嶋野は大鳥の絶命を見届けると、ガバメントを素早く腹に納めながら何事も無かったかの様に元来た動線を戻り、騒ぐ子供をやり過ごして出入口をくぐった。その背中に、早月の悲鳴が追い縋った。 階段を駆け降りた嶋野はトイレに急行した。中で入院患者らしき初老の男性が小用を足していたので、軽く会釈しながら個室に入り込み、男性が用を足し終えるのを待った。かなり長い事排尿の音が響いて、嶋野は若干の苛立ちを覚えた。やがて音が止み、男性が手を洗ってトイレを出た。嶋野は素早く個室から出て周辺を見回し、付近に人影が無い事を確認してか

    鳳凰落とし #26|松田悠士郎
    IDEA_JAM_U46
    IDEA_JAM_U46 2023/08/20
    銃を扱い慣れてない素人って、大体こうなるよね。
  • 鳳凰落とし #25|松田悠士郎

    ウインカーを出して、徐行しながら病院の正面玄関へ入るタクシーの後ろから、嶋野は慎重にクラウンを進めた。素早く駐車場の空きレーンを見つけて駐車すると、ダッシュボードからガバメントを取り出して腰に挟み、病院の出入口前に停車したタクシーを観察しながら運転席を出た。 タクシーを降りた早月は、脇目も振らずに病院に入った。嶋野は足を早めて後を追い、自動ドアをくぐった。 平日の午前中だからか、受付カウンターの前に広がるスペースには多くの外来患者が蠢いていた。早月はその人波を縫う様に奥へ向かっている。距離を空けて後をついて行く嶋野が何気無く見上げると、天井から下がる案内板の中に『緩和ケア病棟』の文字が見て取れた。嶋野の中で、仮説が確信に変わった。 やがて、早月の後ろ姿が緩和ケア病棟に入ると、嶋野は足を止めて様子を窺った。大鳥どころか病棟に入っている患者の誰とも縁もゆかりも無い嶋野が軽々しく足を踏み入れれば

    鳳凰落とし #25|松田悠士郎
    IDEA_JAM_U46
    IDEA_JAM_U46 2023/08/13
    病院って、意外とセキュリティ弱かったりするよね。
  • 鳳凰落とし #24|松田悠士郎

    喋り終えた嶋野は、苦り切った顔で身を起こし、ベッドの下に散乱した服を拾い上げた。その背中に、早月が縋りついて尋ねた。 「貴方、まだ宗師様を狙うの?」 「ああ」 にべもなく答えて服を身に着ける嶋野の前に、裸体にシーツを巻きつけただけの早月が回り込み、床に膝を着いて深々と頭を下げた。 「お願い! もう宗師様を狙うのは止めて!」 服を着終えた嶋野は、その場を立ち去ろうとしかけて足を止め、早月の側にしゃがみ込んで訊いた。 「何でそんなに大鳥を庇う?」 早月は頭を下げたまま、絞り出す様に答えた。 「私は、宗教二世なの。私の両親が、私の生まれる前から『鳳凰教』の信者で、多額のお布施を納めて来たわ。その所為かも知れないけど、うちはずっと貧乏だったわ。でも、両親が教団に貢献してくれたおかげで私は、宗師様のお側で身の回りのお世話をする大事なお役目を頂けたし、亡くなった両親の事も手厚く葬って頂けたの。宗師様に

    鳳凰落とし #24|松田悠士郎
    IDEA_JAM_U46
    IDEA_JAM_U46 2023/08/06
    尾行ってのは、気づかないもんなのかね(書いといて何を)?
  • 鳳凰落とし #23|松田悠士郎

    早月が声を上げようとした瞬間、嶋野は扉の隙間に左足の爪先を突っ込んで固定し、同時に左手で早月の口を顎ごと掴んで塞ぎ、右手に持った荷物を隙間から室内に放り込むと腰に手を回してチェーンカッターを抜いた。口を塞ぐ手をはがそうともがく 早月の鳩尾にチェーンカッターの先端をめり込ませて悶絶させる間に、左手を離して両手でチェーンカッターを持ち、ドアチェーンを素早く切断して中に身体を滑り込ませて後ろ手に鍵を閉めた。 Tシャツに膝丈のスウェットパンツという格好の早月が、激しく咳き込みながら嶋野を見上げた。掛けていた眼鏡がずれ、目尻の泣きボクロが覗いた。 「あ、貴方、どうして」 涙目で問いかける早月を見下ろす嶋野の頭に、再び女性の声が響く。 ひ・と・ご・ろ・し 「!」 目を見開いた嶋野が、を履いたまま右脚を振った。足の甲が早月の下顎に直撃し、背中をのけ反らせながら廊下の奥へ早月の身体が飛んだ。吹っ飛んだ眼

    鳳凰落とし #23|松田悠士郎
    IDEA_JAM_U46
    IDEA_JAM_U46 2023/07/30
    今回の内容に対して「何でそうなる?」というツッコミは禁止。
  • 鳳凰落とし #22|松田悠士郎

    調布へ先回りした嶋野は、クラウンを早月のマンションの近くへ路上駐車すると、ジャケットの内ポケットに押し込んでいたチェーンカッターを助手席に放り、腰に挟んでいたガバメントをダッシュボードにしまい、ハザードランプを点灯させたまま降りた。小走りに付近のコンビニエンスストアに入ってトイレを借用し、軽と缶コーヒーを買い込んで戻った。レジ袋をチェーンカッターの上に置いて衆目から隠し、運転席側の窓を少し開けておき、外に注意をしながら事を始めた。 ものの数分で事を終え、缶コーヒーを啜っていた嶋野の視界に、早月の姿が入った。嶋野は缶コーヒーをダッシュボードの上に置いてシートの背もたれと共に上半身を倒し、首を僅かに上げて早月の様子を伺った。相変わらず俯き加減で歩く早月を観察している内に、嶋野の中に言い様の無い情動がこみ上げた。銀縁眼鏡の裏に隠れた泣きボクロが、嶋野の目には何故かくっきりと見えた。 ひ・と

    鳳凰落とし #22|松田悠士郎
    IDEA_JAM_U46
    IDEA_JAM_U46 2023/07/23
    嶋野が律儀に他の荷物を届けているのは、アシがつかない様にする為。
  • 鳳凰落とし #21|松田悠士郎

    己の中に湧いた大鳥に関する仮説を検証する為、嶋野は衣服を改めてハットを被り、ガバメントを押し入れに隠して襖を閉めた。先程まで着ていた服のポケットから車の鍵を取り出し、ジャケットを羽織って部屋を出た。 クラウンで再び経堂のホームセンターへ赴いた嶋野は、工具のコーナーでチェーンカッターを見つけて手に取り、小さめのダンボール箱とガムテープ、梱包用の緩衝材と一緒に購入して店を出た。 等々力駅付近のコインパーキングにクラウンを停めると、近くのコンビニエンスストアに入って雑誌を適当に二、三冊抜き出し、夕用の弁当と一緒に買い物カゴに入れ、会計時に宅配便の送り状を一通貰って自宅に戻った。早速購入したダンボール箱を組んで底をガムテープで止め、中に雑誌を放り込んで周囲を緩衝材で埋めて蓋をし、記憶していた早月の住所を送り状に書きつけ、夜間に時間指定して貼り付けた。差出人は菅原の名前を借用し、住所はデタラメに書

    鳳凰落とし #21|松田悠士郎
    IDEA_JAM_U46
    IDEA_JAM_U46 2023/07/16
    コンベンションの最中じゃ、なかなか書けんよ。間に合わないかと思ったぜ。
  • 鳳凰落とし #20|松田悠士郎

    嶋野がデスクの引き出しから勝手に灰皿を出して煙草を揉み消した頃、店主が直方体の箱を持って戻って来た。デスクの上に箱を置き、蓋を開けて嶋野に示した。 「これだ」 箱の中に入っていたのは、長くアメリカ陸軍で採用されていた自動拳銃コルトM1911A1、通称「ガバメント」だった。年季が入っている物らしく、銃身の至る所に細かい傷が入っている。銃把の両側にネジ止めされた木製グリップの滑り止めも所々欠けていた。銃口の先には、黒い筒状の物が取り付けられていた。嶋野が希望したサイレンサーである。 「基地務めの奴に問い合わせておいた。一昨日流れて来た」 店主の説明を聞きながら、嶋野はガバメントを取り上げてトリガーガードの付け根近くにあるマガジンキャッチを押し、銃把の中に納まっていた弾倉を抜いた。弾丸で満たされた弾倉を数秒眺めると、嶋野は弾丸を一発ずつ丁寧に抜いて弾倉を空にし、弾丸をひとつひとつ観察した。その間

    鳳凰落とし #20|松田悠士郎
    IDEA_JAM_U46
    IDEA_JAM_U46 2023/07/09
    軍の横流しにサイレンサーがあるのかなんて野暮なツッコミは禁止な
  • 鳳凰落とし #19|松田悠士郎

    車を渋谷へ向けた嶋野は、道玄坂上のコインパーキングに駐車して徒歩で坂を下り、地下通路のキーレスコインロッカーから資料の入った封筒を抜き出すと、センター街に足を向けてインターネットカフェに入った。受付でシャワーを使う旨を告げて利用伝票を貰い、シャワーセットを受け取って足早に部屋へ向かった。 室内に上着と封筒を置き、シャワーセットを持って再び部屋を出て、シャワー室に入った。脱衣所で衣服を脱ぐと、身体中に残った無数の痣や傷を鏡越しに眺めた。身動きが取れない状態で容赦ない打撃を受け続けた為、ダメージは深かった。 軽く鼻を鳴らすと、嶋野はシャワー室に入って湯を全開にし、全身を濡らした。途端に、身体のあちこちから悲鳴が上がるが、嶋野は無視して身体を洗った。 シャワーを終えて部屋に戻った嶋野は、菅原に回収させた資料を封筒から出し、デスクに広げてひとつひとつチェックした。 『鳳凰教』に関しての資料の内容は

    鳳凰落とし #19|松田悠士郎
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    IDEA_JAM_U46 2023/07/02
    渋谷に終始した回。
  • 鳳凰落とし #18|松田悠士郎

    タクシーの中で仮眠を取ろうと思っていた嶋野だったが、先程までの緊張から解放された所為か全身の痛みが蘇って来た為に全く寝られぬまま、指定した等々力駅前に辿り着いてしまった。嶋野は舌打ち混じりに一万円札を運転席と助手席の間に設置されたトレーに置くと、釣銭を渡そうとする運転手を手で制してタクシーを降りた。 歯をい縛って痛みに耐えながらアパートに戻ると、警備員から奪ったを脱ぎ捨てて床に仰向けに寝転がった。暫くそのままの状態で断続的に襲う痛みに耐えていたが、やがて睡魔に意識を侵された。 翌朝、目を覚ました嶋野が少し身体を動かすと、全身の痛みは若干和らいでいた。深く息を吸い込み、強く吐き出しながら勢いをつけて上半身を起こすと、顔を歪めつつ立ち上がって奥へ歩を進めた。無数の打撃と自分の血反吐で汚れた衣服を脱ぎ捨てると、ついでに下着も取って全て着替え、ベルトに挟んでいたナイフを押し入れにしまった。先

    鳳凰落とし #18|松田悠士郎
    IDEA_JAM_U46
    IDEA_JAM_U46 2023/06/25
    文字数をあまり多くしない様に心がけてるから、どうしてもこういうインターミッション的な内容の回で出て来てしまうな。
  • 鳳凰落とし #17|松田悠士郎

    狙い通り、こちらへ近づく足音のピッチが早くなった。嶋野は戸口にしゃがみ込んで息を潜めた。やがて、引き戸の施錠を解く金属音が聞こえた。嶋野は口に咥えていたナイフを右手で取り、順手でしっかりと握り直した。 数秒後、引き戸が耳障りな音を立てて軋み、ゆっくりと横にスライドした。生じた隙間から突き出されたのは、大ぶりの懐中電灯だった。その後ろにある手首にナイフの柄を振り下ろしたい衝動を堪えつつ、嶋野は尚も待った。やがて、引き戸が更に開かれ、微かな光と共に人のシルエットが侵入して来た。円形の帽子を被り、灰色の制服を身に纏った中年の警備員が、恐る恐る足を踏み出して呼ばわった。 「誰か居るのか?」 どうやらこの警備員は、嶋野がここに監禁されている事を知らされていないらしい。よく見ると懐中電灯が僅かに震動していた。嶋野はナイフを持った右手を耳の横辺りまで上げながら、警備員が入って来るのを待った。 荒い息を吐

    鳳凰落とし #17|松田悠士郎
    IDEA_JAM_U46
    IDEA_JAM_U46 2023/06/18
    脱出って、どうしても凝っちゃうね。
  • 鳳凰落とし #16|松田悠士郎

    倒れた大鳥にとどめを刺そうと足を踏み出しかけた嶋野が、妙な違和感を覚えて動きを止めた。その視線の先では、早月が大鳥を介抱すべく屈み込んでいた。その眼鏡の奥の瞳が、ほんの一瞬だけ横に動いた。その目の動きにつられて顔を捩じ向けた嶋野の視界に、意外なものが映った。 たった今、嶋野が鉛玉を撃ち込んだ筈の大鳥が、家政婦らしき中年女性の助けを借りて玄関先に立っていた。 はめられた、と悟った嶋野の右手首に、激痛が走った。セーム革包みのチーフスペシャルを取り落とした嶋野の手首に、特殊警棒が叩きつけられていた。取り巻きの男性のひとりが、咄嗟に一撃を浴びせたのだ。 己の油断を呪いながらその場から逃走を図った嶋野だが、忽ち男性達に取り囲まれて袋叩きに遭った。そこへ、耳障りな声が飛んで来た。 「殺す、な、部、に、連れて、依頼人、を、吐かせ、ろ」 近寄って来た大鳥が、人工喉頭を首に押し当てながら指示を出した。地面

    鳳凰落とし #16|松田悠士郎
    IDEA_JAM_U46
    IDEA_JAM_U46 2023/06/11
    内股に武器を仕込むのは大藪春彦先生リスペクト、脱出のシチュエーションは「処刑遊戯」リスペクト。
  • 鳳凰落とし #15|松田悠士郎

    サンドイッチを胃に収め、コーヒーを飲み干した嶋野は、器類を返却棚に置いて店を後にした。大鳥の邸宅へ戻る途中で、こちらに向かって歩いて来る早月に気づき、咄嗟に横道へ入った。壁に背を着けて息を殺し、早月が通り過ぎるのを待ってから足音を忍ばせて真後ろに付き、何気無い体を装って歩いた。 表通りから路地に入って暫くした所で、嶋野は早月との距離を急速に縮めた。気配に気づいた早月が振り返り、嶋野の姿を認めて息を飲んだ瞬間、嶋野はカーゴパンツのポケットからセーム革包みのチーフスペシャルを素早く抜き出して背中に突きつけ、小声で鋭く命じた。 「そのまま歩け」 早月は背中から伝わる銃口の硬い感触に若干の恐怖を覚えつつ、ゆっくり頷いて前に向き直り、邸宅へ向けて歩を進めた。 邸宅に差し掛かった辺りで嶋野は一旦銃を早月の背中から放し、「行け」と指示して少しずつ早月から離れて進んだ。早月が横目でこちらを見たのを確認し

    鳳凰落とし #15|松田悠士郎
    IDEA_JAM_U46
    IDEA_JAM_U46 2023/06/04
    実際、セーム革で包んだ銃って、撃つとどれくらいの音するのかね?
  • 鳳凰落とし #14|松田悠士郎

    嶋野は腕時計に目を落とした。午後七時近かった。軽く舌打ちしてから、床に置きっぱなしにしていたジャケットを拾い上げて着ると、押入れの襖を開けて車の鍵を取り出した。次にチーフスペシャルに手を伸ばしかけて躊躇し、引っ込めて襖を閉めた。 煙草を咥えながら三和土に降りた嶋野は、ブーツに仕込んだナイフを確認して足を入れ、静かに部屋を出てコインパーキングへ向かった。 クラウンの運転席に身を沈めた嶋野は、エンジンをかけつつ煙草に火を点け、深く吸い込んでから車を出した。 用賀中町通りを北上して駒沢公園通りに合流して更に北上、、世田谷通りで左折して農大通りに入り、経堂駅に差し掛かった辺りで車を路上駐車し、早歩きでホームセンターへ向かった。幸い、まだ閉店前だったので嶋野は内心胸を撫で下ろした。 足早に店内を物色し、目当てのセーム革を見つけて手に取ると、ついでに砥石も取って会計を済ませた。嶋野が店を出る直前に、店

    鳳凰落とし #14|松田悠士郎
    IDEA_JAM_U46
    IDEA_JAM_U46 2023/05/28
    銃をセーム革で包む時は銃口は出さない様にしましょう(『狙撃Ⅱ』参照)。
  • 鳳凰落とし #13|松田悠士郎

    ベッドに押し倒し、馬乗りになって組み伏せた早月が、銀縁眼鏡越しに睨みつける。 嶋野がその顔を張り飛ばすと、眼鏡が飛ばされて左目尻のホクロが露になった。と同時に、早月の顔が夢の中の女性に変わった。 息を飲む嶋野に、女性の真っ赤な唇の端から鮮血が流れ、その口がゆっくり開いた。 『また ころすの?』 「!」 目を見開いて顔を上げた嶋野に、近くに居た客やウェイトレス等が注目した。眉間に皺を寄せながら、嶋野は首を回して周囲を見た。状況を把握すると、溜息と共に頭を振った。 事を摂った後に微睡んでしまったらしい。いつの間にか、テーブルの上から全ての器が下げられていた。己の油断を呪いつつ、嶋野はコーヒーを追加オーダーして欠伸を噛み殺した。 会計を終えて店を出た頃には、既に午前五時近かった。嶋野は煙草に火を点けながら車に乗り、白んで来た空の下へ走り出した。 明け方だからか、道はかなり空いていた。行き交う

    鳳凰落とし #13|松田悠士郎
    IDEA_JAM_U46
    IDEA_JAM_U46 2023/05/21
    こういうのって、ターゲットに近づくのが大変なのよね。
  • 鳳凰落とし #12|松田悠士郎

    衣服を身に着け、腰にチーフスペシャルを挟んだ嶋野は、鍵とナイフを持って脱衣所を出た。室内を物色したがナイフを内股に固定する為のテープ類は見当たらなかったので、仕方無くジャケットの内ポケットにしまい、鍵を手に持ったまま早月を抱き上げて部屋を出た。 フロントで料金を支払い、駐車場に出ると早月を車の助手席に座らせてシートベルトを掛け、運転席に入ってから早月のトートバッグを取って中を改めた。 厚めの財布の中に収められていた運転免許証を見て名前と現住所を確認し、スマートフォンを取り出して電話番号を控えようとしたが、指紋認証を要求されたので早月の右手を取って人差し指をセンサーに押し当てた。案の定ロックが解除されたので電話番号を調べて記憶し、財布とスマートフォンをバッグに戻すと、嶋野はトートバッグを後部座席に放ってエンジンをかけた。 ホテルを出ると、嶋野は車を吉祥寺通りに出して南下し、東八道路を経て三鷹

    鳳凰落とし #12|松田悠士郎
    IDEA_JAM_U46
    IDEA_JAM_U46 2023/05/14
    やっぱり、食事って大事。
  • 鳳凰落とし #11|松田悠士郎

    行為を終えて数分後、漸く落ち着きを取り戻した嶋野は、ベッドの上で枕に顔を埋めて啜り泣く女性を横目に浴室へ向かった。女性の逃走を防ぐ為に、部屋の鍵を持ち込んだ。  脱衣所で脱いだ衣服には、少量の血液が付着していたが、嶋野はさして気にせず、中にチーフスペシャルを押し込んで無造作に床に起き、内股に括り付けたナイフを外して鍵と共に携えて浴室に入り、己の内側に淀んだ暗い情動を汗と一緒に流さんとする勢いで熱い湯を浴びた。脳裏には相変わらず、夢の中の女性がチラついていた。  湯を止めて、激しく頭を振った嶋野が浴室から出ると、脱衣所に女性が入って来ていた。嶋野に破られたブラウスはそのままに、全身を小

    鳳凰落とし #11|松田悠士郎
    IDEA_JAM_U46
    IDEA_JAM_U46 2023/05/07
    何か疲れた。
  • 鳳凰落とし #10|松田悠士郎

    女性は周囲を見回す事も無く、肩に掛けたトートバッグを時折掛け直しながら真っ直ぐ前を向いて歩いている。そのまま進むと、環八通りに出る筈だった。女性の後ろ姿を見据えながら、嶋野は頭脳をフル回転させた。  仮にこのまま環八に出たとして、考えられるルートは路線バスに乗るかタクシーを拾う、さもなければ徒歩で高井戸駅まで行って井の頭線に乗るか、の三つ。いずれにせよ、このまま環八まで行かせてしまってはチャンスが消える。  頭の中で決断を下してからの嶋野の行動は迅速だった。少しアクセルを踏んでスピードを上げ、女性を五、六メートル程追い越してから車を停め、運転席を出て女性に声をかけた。 「あの、すみま

    鳳凰落とし #10|松田悠士郎
    IDEA_JAM_U46
    IDEA_JAM_U46 2023/04/30
    ちょっと調べてみたら、駐車場付きのLHって本当にあるんだな。