江戸時代の俳諧論書「毛吹草(けふきぐさ)」の一節に「菩薩実が入(い)れば俯(うつむ)く、人間実が入れば仰向く」とある。菩薩は米を意味し、「実るほど頭(こうべ)を垂れる稲穂かな」ということわざの由来とされる。 「経営の神様」と呼ばれた松下幸之助さんは、常に謙虚であることを心がけた。「仕入れ先、道行く人もお得意さん」と頭を下げ、「見ること博(ひろ)ければ迷わず、聴くこと聡(さと)ければ惑わず」の古言に倣って、どんな人の意見にも耳を傾けた。部下には時に厳しく叱ることもあったが、短所より「みんな自分より偉い」と長所を見ようとした。 しかし、凡人は偉くなってもなかなか謙虚になれない。むしろ周囲が持ち上げるのを勘違いして尊大になってしまう。とくに政治家は、選挙では票欲しさに頭を下げまくっていたのに、当選した途端にそっくり返る。以前このコラムで取り上げた、飛行機の客室乗務員に横柄な態度でクレームを付けた