『エクソダス症候群』の舞台は過酷な環境の火星開拓地、中心となるテーマは精神疾患だ。読みはじめてまっさきに連想したのは、フィリップ・K・ディック『火星のタイム・スリップ』だった。ディック作品では、精神疾患とみなされていたものが実は独特の世界認識・時間感覚の反映だった。『エクソダス症候群』はディックとはまったく別なかたちだが、大胆なアプローチで精神疾患の意味を問うていく。 エクソダス症候群に罹った者は、妄想や幻覚をともなった強い脱出衝動に駆られる。地球ではすでに見られなくなったこの病が、火星で急増していた。ウイルス説、環境汚染説、食事説、医源説......さまざまな仮説が立てられるが、決め手は見つからない。その謎をめぐってストーリーが進行し、表面的には医療サスペンス(マイクル・クライトン『アンドロメダ病原体』の精神科版)として読むこともできる。クライマックスでの謎解きもある。だが、それはこの小
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