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ブックマーク / honz.jp (167)

  • 『いつかの夏 名古屋闇サイト殺人事件』人間の卑劣さと高潔さを徹底して描き出す - HONZ

    2007年8月24日、名古屋市内に在住の31歳の女性会社員、磯谷利恵さんが帰宅途中に男三人に拉致されて殺害され、岐阜県の山中に捨てられるという事件が起きた。犯人の一人が直後に警察に電話をかけて自首し、女性の遺体が発見されたことで事件が発覚した。 後に「名古屋闇サイト殺人事件」と名付けられたこの事件の犯人たちは、犯罪を行う仲間を募集するインターネットサイト「闇の職業安定所」という掲示板を通じて知り合い犯行に及んだ。事件は仲間を募る書き込みをしてから8日後、顔を合わせてから3日後に起こった。 事件があまりにも残虐で無計画なものだっただけに、マスコミは大きく報道した。「闇サイト」の存在が明るみになった頃で注目度も大きかった。実際、私もこの事件はよく覚えている。顔も見たことがない、縁もゆかりもない男たちが、金品強奪の目的のため一人で歩いている若い女性をターゲットにした、という恐怖と怒り。屈強の男三

    『いつかの夏 名古屋闇サイト殺人事件』人間の卑劣さと高潔さを徹底して描き出す - HONZ
  • 『いつかの夏 名古屋闇サイト殺人事件』は、ここまでの作家人生の、一つのピリオドとなる作品になりました。 - HONZ

    『いつかの夏 名古屋闇サイト殺人事件』は、2007年に起きた凄惨な強盗殺人事件を、被害者の磯谷利恵さんの人生を軸にたどったノンフィクションだ。すでにHONZでもレビューが掲載され、大きな話題を呼んでいる。これまで4作の作品を書いてきた大崎善生さんは、5作目の題材に選んだ作を「作家人生のピリオド」とまでいう。その言葉の裏側には、どのような思いがあったのか?(HONZ編集部) ――『いつかの夏 名古屋闇サイト殺人事件』は、2007年に起きた凄惨な強盗殺人事件を、被害者の磯谷利恵さんの人生を軸にたどるノンフィクションです。この事件を題材にしようと思われたきっかけはなんだったのでしょうか。 大崎 この事件は、私の息子が2歳のときに起こったんです。その当時、私はいつも午前中、子どもをあやしながらワイドショーを見るような生活をしていたんですよね。この事件は闇サイトで集まった無関係の男たちが起こしたも

    『いつかの夏 名古屋闇サイト殺人事件』は、ここまでの作家人生の、一つのピリオドとなる作品になりました。 - HONZ
  • 慟哭のノンフィクション 『いつかの夏 名古屋闇サイト殺人事件』 - HONZ

    大崎善生は大好きな作家の一人である。もちろん最初の一冊はあの『聖の青春』で、いきなりファンになってしまった。以後、著作のほとんどを読んでいる。どのも面白いのだが、なかでも、稀代のSM作家・団鬼六を描いた『赦す人』などは、誰にでも勧めたくなる出色のノンフィクションだ。 いちばん好きな作品は、短編集に収められた『優しい子よ』である。重い病に冒された子どもとの交流に題材をとった私小説は、大崎の作品に限らず、これまでに読んだの中で最高に泣けたである。いや、である、ではなくて、今や過去形だ。『いつかの夏』がいちばん泣けたの座を奪ったのである。何度も何度も嗚咽をこらえられないほど泣いたのは、このが初めてだ。 2007年におきた『名古屋闇サイト殺人事件』は、ネットで知り合った見知らぬ同士がおこした事件であったこと、まったく面識のない罪なき女性が帰宅途中で犠牲者になったこと、そして、その殺人方法

    慟哭のノンフィクション 『いつかの夏 名古屋闇サイト殺人事件』 - HONZ
  • 『超監視社会 私たちのデータはどこまで見られているのか?』 - HONZ

    私たちがSFの世界に生きていると言われてもピンと来ない人は、手元の携帯電話を見てほしい。オシャレで、カッコよくて、想像を絶するくらい高性能な携帯電話――それは生活に欠かせない道具、そこにあるのが当然の存在になっている。地球上のどこにいても、それをポケットから取り出せば、地球上のどこにいる人とも話せる。 これは、ごく自然な日常の光景に思えるかもしれない。 しかし、毎朝、携帯電話をもって家を出るとき、あなたは暗黙のうちに携帯電話会社との取引に応じている。いつでもどこでも携帯電話をかけたり、受けたりできる代わりに、携帯電話会社に居場所をつねに把握されることを受け入れているのだ。契約書にそのように明記されているわけではないが、サービスの仕組みを考えると必然的にそうなる。 あなたのポケットの携帯電話が、すべて勝手にやってくれる いままで、そんなことは考えたことがなかった人も多いだろう。でも、まんざら

    『超監視社会 私たちのデータはどこまで見られているのか?』 - HONZ
  • 永久保存版! 『WHAT’S NEXT? TOKYO CULTURE STORY』 - HONZ

    TOKYO CULTURE STORY|今夜はブギー・バック(smooth rap) in 40 YEARS OF TOKYO FASHION & MUSIC|presented by BEAMS この動画は公開されるやいなや、SNSを中心に話題となり、既に再生回数は700万回を超えている。制作をしたのは「TOKYO CULTURE STORY」だ。TOKYO CULTURE STORYは、1976年から2016年までの東京カルチャーをアーカイブするプロジェクトである。プロジェクトを発起したのは創業40周年を迎えたBEAMSで、編集協力はマガジンハウスだ。 この動画は名曲「今夜はブギー・バック」を背景に、1976年から2016年まで、東京の40年間のファッション音楽の軌跡を圧縮して納めたものだ。この動画にはすさまじい量の情報が詰め込まれている。動画に出てくるスタイルやハッシュタグを下記に

    永久保存版! 『WHAT’S NEXT? TOKYO CULTURE STORY』 - HONZ
  • 『バブル 日本迷走の原点』バブルを知らない我らが世代に送る 客員レビューby 岩瀬 大輔- HONZ

    「岩瀬君のようにバブルを知らない世代に読んで欲しいを書いている」 バブル時代に日経証券部のキャップとして大活躍したジャーナリスト、永野健二氏からそのように言われていたが、ようやく上梓された。 あの時代をMOF担として渦中で過ごし、最近では読売新聞の書評委員として筆をふるう当社の出口会長をして、「あのバブルの時代は何だったのか、誰かにきちんと総括してほしいとずっと渇望していた。やっと読み応えのある1冊に出会った気がする。」と言わしめた一冊である。 私なりに書の内容を整理すると、次の通りである。 1973年の変動相場制への移行とオイルショックを受けて、80年代には世界的な金融の自由化が進み、膨大な量のマネーが世界中を動き回るようになる。日米独の当局は米国の不況脱出を後押しするドル安為替介入・金利引き下げなど協調的なマクロ経済政策を実施するが、国内で求められる経済政策とは必ずしも整合性が取

    『バブル 日本迷走の原点』バブルを知らない我らが世代に送る 客員レビューby 岩瀬 大輔- HONZ
  • 『バブル 日本迷走の原点』邪悪なる善は甘い蜜に潜む - HONZ

    伏魔之殿 遇洪而開 書は「始動」「膨張」「狂乱」「精算」の4章、全21節で構成された好漢譚として楽しむことができる今年一番のおすすめだ。各節ごとにそれぞれ10人ほどの好漢たちが登場し、各々の役割を演じては舞台を去ってゆく。その好漢たちとは時の首相であり、日銀総裁であり、証券会社の経営者であり、銀行の頭取たちだ。もちろんバブル紳士も高級官僚も登場する。 広辞苑によれば、好漢とは「好ましい男」。けっして「正義の男」でも「立派な男」でもない。男として魅力的ではあるが、どこか危ういところを持っている人物たちだ。著者は同時代の取材対象になった好漢たちと密に接しながらも、その妖しい魅力に惑わされることなく、現代政治経済史の証言者に徹したジャーナリストだ。しかし、その彼もまた好漢なのである。 その証左は書冒頭の一文だ。 「バブルとは、グローバル化による世界システムの一体化のうねりに対して、それぞれ

    『バブル 日本迷走の原点』邪悪なる善は甘い蜜に潜む - HONZ
  • 『ニワトリ 人類を変えた大いなる鳥』 - HONZ

    ニワトリ無くして、人類無し! もし世界からニワトリが消えたなら? きっと各地でパニックが起きるに違いない。鶏肉は牛肉・豚肉などと比べて国際的な生産・消費量が急増しており、とりわけ新興国・途上国での需要がぐんと伸びている。安価で栄養価の高い肉や卵は、多くの庶民の健康を陰で支えてきた。 その膨大な加工品も含めて、人類にとってますます不可欠な材となり、成長する巨大都市のエネルギー源にもなっている。 もし私たちが他の惑星へ移住する時がきたならば、最も重要なタンパク源としてニワトリをまず同行させるだろう。実際、NASAはニワトリが惑星間旅行に耐えられるかどうかの実験をしており、可能と結論づけている。 材だけではない。インフルエンザの世界的流行をい止めるのにも、ニワトリは重要な役割を担っている。インフルエンザワクチンを作る入れ物として、卵が使われているのだ。 「宇宙船よりも複雑な構造」を持つ卵

    『ニワトリ 人類を変えた大いなる鳥』 - HONZ
  • 『未来政府』と『経済学者 日本の最貧困地域に挑む』で知る民主主義の理想と現実 - HONZ

    なぜ人と政府との関わりは希薄になったのか 元サンフランシスコ市長であり現カリフォルニア州副知事である著者ギャビン・ニューサムは、ずっと疑問に感じていた。SNSで頻繁にメッセージを発信し、ポケモンGoで何百キロも歩いてモンスターを追いかけるアクティブな人々が、なぜこれほどまでに政治に関心を示さないのか。2011年にロサンゼルスで行われた重要な教育・環境に関わる住民投票の投票率はわずか12%に過ぎなかったことを、ギャビンは当然のこととして受け流すことはできなかった。 無関心の原因は政府や政治家にある、とギャビンは考える。新たなテクノロジーが人々の生活を驚くべきスピードで変化させているのに、「現在の政府は1973年だったら最先端だったろうと思える機能しか備えて」おらず、市民の関心を十分に引きつける存在になっていない。書は、そんな現状を変えるためにテクノロジーにできることについて、ギャビンが多く

    『未来政府』と『経済学者 日本の最貧困地域に挑む』で知る民主主義の理想と現実 - HONZ
  • 『ふわとろ』私たちはどこに「おいしさ」を感じているのか - HONZ

    「シャキシャキ」 「ジューシー」 「もっちり」 「濃厚な」 「歯ごたえのある」 おいしい感覚を表す言葉の数々。「シズルワード」と呼ばれるこうした言葉たちを軸に、「おいしさ」とは何なのかを考えていく1冊だ。世の中に飛び交うべ物の感想や宣伝の文句も、シズルワードに着目してみると、べ物の何が「おいしい」とされているのかが見えてくる。 全体を通して底にあるのは、私たちはどのような要素をもって「おいしい」と感じているのか、という問いである。その問いに迫ろうとする、様々なアプローチをいくつか引いてみたい。 2003年から2015年にかけて行われたこんな調査がある。約300語のシズルワードを提示し、反射的に「おいしいを感じる」言葉を選んでもらうというものだ。 調査にあたって、シズルワードが「味覚系」、「感系」、「情報系」の3種類に分けられる。それぞれ一例を挙げると、味覚系は「甘い」「辛い」「酸っぱ

    『ふわとろ』私たちはどこに「おいしさ」を感じているのか - HONZ
  • 『生命、エネルギー、進化』この生物学の本にはぶっとんだ! 客員レビュー by ビル・ゲイツ - HONZ

    昨年、私たちの財団でグローバル・ヘルス関連の仕事を手掛けているトレヴァー・マンデルが私に、このを読むよう勧めてくれた。私はそれまで書のことも、著者であるユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドンのニック・レーンという生物学者についてもまったく知らなかった。数か月後には、私はたんにこのを読み終えていただけでなく、ニックのほかの著書3冊を取り寄せ、うち2冊を読み終わり、ニューヨークで彼と会う手筈を整えていた。 ニックはジャレド・ダイアモンドのような書き手を思い起こさせる。世界について多くを説明する壮大な理論を考え出す人々だ。彼はそんな独創的な思索家のひとりで、あなたにこう言わせる。「この男の仕事についてもっと多くの人が知るべきだ」 ニックの著作は質的には、すべての生きとし生けるものにとってのエネルギーの役割を読者に深く認識させ、科学におけるボタンの掛け違いを正そうとする試みである。『生命、エ

    『生命、エネルギー、進化』この生物学の本にはぶっとんだ! 客員レビュー by ビル・ゲイツ - HONZ
  • 『外来種は本当に悪者か? 新しい野生 THE NEW WILD』 - HONZ

    外来種と言えば、琵琶湖の在来種を脅かすブルーギルやブラックバスが脳裏に浮かぶ。いかにして駆除するか、心ない放流をい止めるか。獰猛な外来種から琵琶湖の自然を守れ。確かにそうだと思う反面(因みに、僕は琵琶湖の外来種の駆除にはずっと賛成している)、何か心にひっかかるものをずっと感じていた。書は、この問題に正面から挑んだ力作である。 冒頭、南大西洋・アセンション島の蒼とした雲霧林(グリーン山)が紹介される。原始の状態が残っていると考えた著者の推測は完全にはずれた。ダーウィンが訪れたときは丸裸の島で人間が持ち込んだ外来種が島を緑に変えたのである。 孤島の生態系は外来種の絶好のカモだという思い込みには根強いものがあるが、島嶼グループを対象にした調査では在来種に重大な影響を及ぼしたものはほんのひと握りで、ほとんどの外来種は多様性を高め生態系を豊かにしていたのである。著者は、オーストラリア、ヴィクト

    『外来種は本当に悪者か? 新しい野生 THE NEW WILD』 - HONZ
  • 『ジビエ教本 野生鳥獣の狩猟から精肉加工までの解説と調理技法』自分で獲って、自分で捌く - HONZ

    ジビエレストラン「LA CHASSE(ラシャッス)」がどこにあるか直ぐに分かる人はかなりの通である。住所は港区六木三丁目で、泉ガーデンの首都高環状線を挟んで向い側の、先日オープンしたばかりの六木グランドタワー(六木三丁目東地区計画)の直ぐそば、六木通りから少し入った寄席坂の上の方にある。この都会の喧騒の中にポツリと佇む隠れ家レストランをわざわざ訪れるのは、かなりのジビエ好きである。 「ジビエ」とは野生の鳥獣のことで、転じて、それらの料理を指す言葉としても用いられる。つまり、鴨、山鳩、山鶉、雉子、雷鳥、蝦夷鹿、熊、兎、猪など野生の材を使った料理が「ジビエ料理」である。高タンパク低カロリーで肉の旨みの詰まったジビエ材は、日でもここ最近急速に人気が高まっている。 ワインとの取り合わせをソムリエ試験的に言えば、「羽のジビエはブルゴーニュの高級な赤ワイン、毛のジビエの煮込みは南西地方か

    『ジビエ教本 野生鳥獣の狩猟から精肉加工までの解説と調理技法』自分で獲って、自分で捌く - HONZ
  • 『誰が音楽をタダにした? 巨大産業をぶっ潰した男たち』 - HONZ

    その昔。今の20歳以下の人たちには理解できないかもしれないけれど、人はおカネを払って楽曲を買っていた。しかもCDというメディアに入ったアルバムというものを買っていた。アルバムの中には12曲くらい入っていて、2枚組なんていうものもあった。その前にはレコードなんていうものもあったし、私が生まれて初めて買ったのはユーミンのLPだったけど、そんなことはどうでもいい。重要なのは、そう遠くない昔、音楽は有料だったということだ。 いつから音楽は無料になったんだろう? おそらくナップスター以降と答える人がほとんどかもしれない。実際、レコード業界を破壊した犯人としてもっとも名前があがるのは、ナップスターを立ち上げたショーン・ファニングとショーン・パーカーだ。 でも、ナップスターが立ち上がる前から、音楽ファイルはインターネットのどこかにあった。ナッフ

    『誰が音楽をタダにした? 巨大産業をぶっ潰した男たち』 - HONZ
  • 『喰い尽くされるアフリカ』天然資源に群がる謎の企業たち - HONZ

    2000年10月、中国政府は中国-アフリカ協力フォーラム第一回会議を北京で開催し、江沢民国家主席(当時)が中国アフリカへの「対外進出」政策の推進を高々と宣言した。天然資源を軸とした中国アフリカ諸国の蜜月関係のはじまりである。 以降、2000年代初頭から今日に至るまで、欧米企業が主導していたアフリカでの資源開発に中国企業が次々と参入することとなる。後世の歴史家がグローバルな天然資源の配分のされ方を記す際には、2000年10月は「欧米の資源略奪システムを中国が乗っ取ったターニングポイント」として扱われるだろう。 この中国アフリカへの「対外進出」政策の最前線で巨額取引を次々と決めていったのが、あご髭と眼鏡が特徴的な徐京華(Mr. Sam Pa)というビジネスマンである。中国政府の元諜報員とも噂されている人物だ。 中国によるアフリカへの巨額取引は、一般的に、1,000億円単位の資金を低利で貸

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    benzina
    benzina 2016/09/15
  • 『夢の新エネルギー「人工光合成」とは何か』がわかる! ホントにわかる!! - HONZ

    人工光合成の技術を利用すれば、石油や石炭といった化石燃料に頼らずにエネルギーをまかなうことができる。同時に、全人類にとっての大問題となっている二酸化炭素の排出量を減少させることもできる。まるで夢か魔法の技術だ。 光合成というのは、植物や藻類、シアノバクテリウムといった細菌においておこなわれる、光をエネルギーにして水と二酸化炭素から炭水化物と酸素を作る生化学反応である。光合成という言葉にはなじみがあるので、人工光合成というと何となくわかったような気がする。が、実際にどのような技術であるかを知っている人は多くないだろう。しかし、このを読むと、人工光合成のすべてがわかる。 大きく三つの部分から構成されている。まずは光合成の原理の説明だ。光合成とは、光のエネルギーが酸化還元反応を通じて物質エネルギーへと変換される過程に他ならない。というと難しいように聞こえる。実際、その詳細は、よくこのような反応

    『夢の新エネルギー「人工光合成」とは何か』がわかる! ホントにわかる!! - HONZ
  • 集団はどうして愚かな結論に至ってしまうのか 『賢い組織は「みんな」で決める リーダーのための行動科学入門』 - HONZ

    「三人寄れば文殊の知恵」という。たしかに多くの場合、何人かでアイデアを出しあえば、ひとりで考えるよりいい決断に至ることができる。しかしその一方で、いつもそうとはかぎらないこともわたしたちはよく知っている。みんなで考えたのに愚かな結論に至ってしまった、いやむしろ、みんなで考えたからこそ愚かな結論に至ってしまった――そんなケースに誰もが思い当たるふしがあるのではないだろうか。 だがそうだとしたら、集団で考えるとどうしてしばしば失敗してしまうのか。そして、どうしたら集団としてより賢くなれるのか。それらふたつの問題に、書は行動科学の知見を用いながら迫っていく。 書の特色は、「集団のメンバーからいかに有益な情報を吸い上げるか」という視点から上記の問題を考えているところにある。集団の全メンバーが持つ情報を足し合わせると、その情報は、そのうちのひとりが持つ情報よりもつねに多い。よって、素朴に考えれば

    集団はどうして愚かな結論に至ってしまうのか 『賢い組織は「みんな」で決める リーダーのための行動科学入門』 - HONZ
    benzina
    benzina 2016/09/12
  • 『ルポ ニッポン絶望工場』 メディアが報じない便利さの裏側 - HONZ

    世の中には「知っておくべきだが、知らされていない事実」がたくさんある。書が伝えるのは、日で過酷な労働を強いられている「留学生」や「実習生」の実態である。出稼ぎベトナム人と、彼らをい物にする日語学校、低コストで彼らを雇う企業という三すくみの構図がメインだ。また、中国人や日系ブラジル人減少している理由や、外国人介護士が定着しない理由についても書かれている。書に書かれていることは、日人として「知っておくべきこと」の一つだと私は強く感じた。 書によると、日で暮らす外国人の数は、昨年1年間で約11万人増え、過去最高の約223万人に達した。こうして増加した外国人の半分以上は「実習生」と「留学生」として日にやってきているそうだ。実習生・実習生とも、前年比15パーセントの増加。まさに、急増である。なぜ、そうなったのか。書によると、その答えは出稼ぎである。日の労働人口は減り続けており、

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  • 『<わたし>は脳に操られているのか 意識がアルゴリズムで解けないわけ』 - HONZ

    あなたもアンドロイドだ 人工知能のめざましい進展は、人間の能力に迫り、さらに超えつつあるようにさえ見える。やがて、心や意識をもったAIも生まれると予測する研究者も少なくない。私たち人間と区別のつかないようなアンドロイドが、未来に登場するのだろうか? だが、想像の翼を広げる前に、あたりを見回してほしい。いまあなたの周りにいるひとたち、そしてあなた自身ですら実はアンドロイドだったとしたら? これはSFの話ではない。脳科学の成果は、実際、私たち自身が<脳>に操られるアンドロイド(生きたマシン)にほかならないというのだ。 たとえば、書でも紹介されているベンジャミン・リベットの実験。この実験は、私たちが意識的に自覚する前に、すでに脳が行動しようと実行しはじめていることを明らかにした。つまり脳(無意識)が私たちの行動を、まず先に自動生成しているというわけだ。 また、脳画像をモニターすることによって、

    『<わたし>は脳に操られているのか 意識がアルゴリズムで解けないわけ』 - HONZ
    benzina
    benzina 2016/09/05
  • 『タングステンおじさん』化学にのめり込んだ、少年時代のオリバー・サックス - HONZ

    稀代の書き手であったオリバー・サックスが亡くなって1年(8月30日が命日)。『タングステンおじさん』は、2001年に単行として刊行され、このたび文庫化された作品ですが、私は単行を読んでいなかったので、この文庫版を手に取りました。だって、なんて魅力的なタイトルなのでしょう!(うかつにも読んでなかったわたし…) すこし回想めきますが、私がオリバー・サックスという名前を意識するようになったのは、今から22年前、The New Yorkerに、An Anthropologist on Mars (火星の人類学者)という記事が掲載されたときのことでした。自閉症の動物学者テンプル・グランディンに取材したこの作品を引き込まれるように読んだ私は、これはすごい書き手だ! と思い、それ以来、サックスの記事が載るのを楽しみにするようになりました。 実はこの「火星の人類学者」は、のちに映画化される『レナードの

    『タングステンおじさん』化学にのめり込んだ、少年時代のオリバー・サックス - HONZ