これまでの分 その1 その2 その3 本文 セキゼキさん(仮名)が繰り返し逃避行を続けた2008年3月27日から28日の二日間を、後に私たちは、「魔の二日間」と呼びました。 セキゼキさんにとってはこの「魔の二日間」は暗くて重い渦のようなもので、未だにしっかりと思い出すことができないのだそうです。おそらくこれから先も、きちんと思い出せるようになることはないでしょう。 私の場合は逆に、駅の改札でセキゼキさんに会ってから、最後に家に連れ戻すまでの過程は、焼き付いたように鮮明な記憶となっており、まるで昨日のことのようにはっきりと思い出せます。 ですが。 セキゼキさんを最後に家に連れ戻した時から、私の記憶は急に曖昧になります。断片的で時系列がはっきりとしないバラバラの思い出があるだけの空白の日々が、それからしばらく続きます。 あの頃のセキゼキさんはとにかくゾンビみたいだった、ということは覚えています