『R帝国』(中央公論新社) 戦争の足音が聞こえる気がする。すべて杞憂ならばいいが、世界の不穏な情勢に不安な日々を過ごす人は少なくはない。こんな世の中であるからこそ、ディストピア小説にブームが来ているらしい。アメリカでは、トランプ政権発足以来、ディストピア小説の名著ジョージ・オーウェルの『1984』が爆発的人気だというが、日本では、中村文則氏のディストピア小説が一大ブームになるに違いない。 中村文則氏著『R帝国』(中央公論新社)は、全体主義が蔓延る架空の島国を描き出した近未来SF。多くの著名人に衝撃を与えた中村氏の著書『教団X』のエッセンスが感じとれるこの小説は、現代社会への警鐘だ。最初に引用された、ヒトラーの「人々は、小さな嘘より大きな嘘に騙されやすい」という言葉。そして、「朝、目が覚めると戦争が始まっていた。」という一行から始まる物語は、どうしてもフィクションとは思えない。これは日本の未