私の手を引いて - 傘をひらいて、空を

私たちはお行儀よく並んで天使の声を待っていた。いちばん前は教会の扉がひらくまでりんごをかじりガラス瓶に入った炭酸水を飲んでいた東欧系のカップル、そのうしろはドイツ語を話す団体。その後ろに日本人の私たち。私はウィーンに来てから知りあった留学生の女の子と一緒で、さらに後ろに並んだ女性たちも日本人だった。 並んでいるあいだ私たちはいくらか話をした。女性たちのひとりは留学生と私の顔を等分に見て、強いのねえ、えらいわねえと何度も言った。ひとりで外国に勉強に来るなんてねえ。ドイツ語が話せるだなんてねえ。私は二度ばかり彼女のことばを打ち消した。留学生はこのひとだけです、私は、ただの観光客です、ドイツ語だってできません。 でもひとりで来たのでしょうと彼女はいう。それになんだか話していたじゃないの。立派なことねえ。私はあいまいに笑ってちいさい声でこたえる。一度ひとりで海外に来てみたかったんです、何度か人に連

[hentaism]

『この人は当たり前の顔をしてどこにでも行ける気になっている私の、かつて持っていた大きな可能性だ。』

[namisk]

一人でできたら凄いってわけじゃないよねぇ。そのことを思い出させてもらいました。