今週の本棚：岩間陽子・評 『スリーパー・エージェント 潜伏工作員』＝アン・ハーゲドーン著、布施由紀子・訳 | 毎日新聞

（作品社・2970円） 冷戦のはざま ユダヤ人の苦悩 今月、映画「オッペンハイマー」を見た人も多いだろう。マンハッタン計画のスケールの大きさ、登場人物の多さに圧倒されたのではないか。しかし、本書『スリーパー・エージェント』を読むと、それが氷山の一角に過ぎないことに気づき、米ソ間の情報戦の業の深さ、その間で役割を果たすことになったユダヤ人という存在の難しさに嘆息するだろう。 主人公のジョージ・コヴァルは、並み居るソ連のスパイの中では、それほど知名度の高い方ではない。マンハッタン計画でスパイ任務を果たしたのち、1948年には無事にソ連に逃亡し、2006年に92歳でなくなるまで、ソ連で平穏な生涯を送った。次第にスパイ・コヴァルの存在は知られるようになっていたものの、一気に注目を集めたのは、その死後、ロシアのプーチン大統領が、ソ連の原爆製造への貢献に対してロシア連邦英雄金…

[taketake89]

“今月、映画「オッペンハイマー」を見た人も多いだろう。マンハッタン計画のスケールの大きさ、登場人物の多さに圧倒されたのではないか。しかし、本書を読むと、それが氷山の一角に過ぎないことに気づき”