大阪市立大学文学部教授 神野 慧一郎 我々はどのようにして知識を獲得し,また成長させているか。そういうことについての議論を知識論という。近世哲学の知識論では,合理論と経験論とがその主要な立場とされている。そういう理解には問題もあるが,ここでは一応その見方に従い,それら二つの立場をそれぞれ考察してみよう。 はじめに 私はここで近世の哲学者の意見を紹介しようとしている。しかし,我が国では哲学とはいかなるものか,十分な理解が行き届いているとは思われない。哲学という言葉にまつわる不要な誤解を除くためには,哲学が成立した最初の姿を見るのがよい。 よく知られているように,哲学は古代ギリシャにおいて初めて成立した。そして,その創始者としてターレスが挙げられるのが普通である。彼は,この世界は何からできているかという問いを立て,それに答えて,万物は水からできていると言った,とされている。世界が水からできてい