30代後半で作家デビューして以来、実体験の延長で小説を書いていました。『黄金を抱いて翔べ』は会社員だった当時、疲れ果てて大阪市内を歩きながら、銀行強盗でもしたら気が晴れるかな、とふと思ったのがきっかけ。『照柿』に登場する工場も、私が育った大阪の町工場の懐かしい風景です。 『レディ・ジョーカー』も、自らの生活の延長線上で書くはずでした。でも、連載開始直前に阪神大震災が起き、社会をより大きな目でとらえるようになりました。 バブル経済崩壊後という時代でした。「政治は三流だが経済は一流」と聞いて育った世代にとって100兆円の不良債権はショックでした。誰がどこで間違えたのか。震災とあわせ、自らのアイデンティティーが崩れる感覚に襲われました。大正生まれの私の母が「これから悪い時代になる気がする」と言ったのも、きっかけの一つでした。 なぜ、こんな日本になってしまったのか。今と地続きのものとして昭和史を見