タグ

ブックマーク / newsweekjapan.jp (14)

  • ニューヨークで再会した小津安二郎

    小津安二郎監督の映画に初めて出会ったのは1994年。僕の人生があまりうまくいっていない頃のことだ。日語教師が彼の作品を紹介してくれたのだ。僕はすぐに、小津作品と恋に落ちた。 授業で『秋刀魚の味』のいくつかの場面を繰り返し観て、その会話を理解しようとしたのを覚えている。「ひょうたん」というあだ名の酔っ払った教師が、自分がどんな魚をべたか分からなかったのに、鱧という漢字だけは知っているという場面。それから中年男が、年下のについて友人たちにからかわれる場面。 何て温かみがあって、愉快で、興味をそそるんだろう。僕はそう思った。そして、宅配DVDサービスができるよりもずっと前の時代に、ある奇跡が起きた。『秋刀魚の味』に出会ってから約1カ月後に、全く同じ作品をイギリスのテレビ局が放映したのだ。録画して何度も観た僕は、この物語がこんなにも多くの感情をこれほど微妙に表現していることに打ちのめされた。

  • 印象論とテクニックに引き裂かれた日本の教育

    1月16日の土曜日、アメリカニュージャージー州のプリンストン大学では、バイオリニスト五嶋みどり氏による公開レッスン(マスター・クラス)が行われました。バイオリンを学んでいる3人の学生が演奏し、これに対して五嶋氏がレッスンをつけるという2時間のプログラムで、私はたまたま見学する機会を得たのですが、「音楽とは何か」という根の問題に迫る素晴らしいレッスンでした。五嶋氏は独奏者としては世界のトップレベルであるのは間違いありませんが、教育者としても最高の資質を、そして真摯な姿勢を持った方だということを知り、深い感動の余韻が続いています。 サン・サーンスの協奏曲三番の第三楽章を弾いた最初の学生に対して五嶋氏は、まず「この楽章の冒頭部では音楽のディレクション(方向)はどこを向いているのか?」という問い掛けをおこないました。面らう学生に対して五嶋氏は「第三楽章は第二楽章を受けて始まり、第三楽章という新

  • アラビア半島でアラビア語が絶滅する?

    昨秋、アラブ首長国連邦(UAE)のUAE大学アラビア言語文学課程に入学した学生はたった5人。大学の34年の歴史の中で最も少なかった。 アラビア半島の東端でアラビア語がゆっくりと消滅しつつあるらしい。外国人が人口の80%以上を占めるUAEでは、アラビア語は英語とヒンディー語に次いで3番目に多く話されている言語にすぎない。UAEの国民は石油によって豊かな生活をして、政府から特別待遇を受ける少数派。彼らのアイデンティティーである言語は西側の消費文化の波に洗われて危機的状況にある。 UAEやカタールでは英語がビジネスやメディアの共通語になっている。「これらの国でアラビア語は絶滅危惧言語だ」と、ドバイ・アメリカン大学のカマル・アブドルマレク教授は言う。ドバイでも店や看板などでアラビア語は英語と同列に扱われているが、耳を澄まさないと日常生活でアラビア語会話は聞けない。 アラビア語にとって最大の脅威は高

  • iPadで拡大する日米の情報格差

    話題を呼んでいたアップルのタブレット端末iPadが27日、発表された。ほぼ予想どおりで、iPhoneを4倍に拡大したような感じだ。ソフトウェアもiPhone用アプリケーションがすべて動くので、日でもソフトバンクが対応するだろう。問題は端末ではなく、iPadで読めるが日にほとんどないことだ。 アメリカの出版社は、アマゾンの電子端末「キンドル」による配信を積極的に進めており、昨年はAmazon.comでの電子書籍の販売部数が紙の書籍を上回った。iPadにもNYタイムズ、マグロウヒル、サイモン&シュースターなど大手の新聞・出版社がコンテンツを提供する予定だ。ところが日では、キンドルも端末(英語版)は発売されたが、は(一部のマンガを除いて)読めない。アマゾンは日の出版社と交渉しているといわれるが、難航しているようだ。 iPadについても同様の交渉が行なわれているが、いつ話がまとまるかわ

    iPadで拡大する日米の情報格差
  • 天皇裕仁(1901-1989)

    [1989年1月15日号の掲載記事を2006年2月1日号にて再録] 右の写真でアメリカ人記者と握手しているのは、紛れもない昭和天皇その人である。生物学者でもあった天皇裕仁がこの世を去ってから、もう18年になる。 89年1月に裕仁が亡くなると、誌は天皇崩御を伝える臨時増刊号を発行。その中で、1975年9月29日号の英語版ニューズウィークに掲載された天皇裕仁の単独インタビューを転載した(日語で出版されたのは初めてだった)。 異例中の異例ともいえる、たった一度の単独インタビューは、75年の天皇の訪米直前に誌東京支局長バーナード・クリッシャーが勝ち取ったものだ(記者の回顧録も掲載)。 今回、これまでは誌面に載らなかったやりとりも含め、計32分間の貴重な記録をここに再現する。 ----陛下はなぜ、アメリカ訪問を希望されるのか。アメリカアメリカ人に対して、何か特別な感情をもっておられるのか。

    天皇裕仁(1901-1989)
  • ポンティアック、タワレコ、MDディスク......2000年代に消えたもの

    ゼネラル・モーターズ(GM)がポンティアックとサターンの投げ売りバーゲンをすると発表した。どちらも2009年に生産を終えたブランドだ。 09年5月にデトロイトに行った時、ポンティアック市を訪ねた。この街出身の有名人にはマドンナがいる。彼女の父親はポンティアックのエンジニアだった。 ポンティアック工場の向かいにある労組事務所で話を聞いた。広報担当者は「工場がなくなれば、ポンティアックという市自体が消えてしまうだろう」と嘆いた。「いいかい? 私たちが生まれ育った町自体が消滅するんだ」 ポンティアックといえば、筆者の世代にはなんといってもファイヤーバード・トランザムだ。ボンネットいっぱいに火の鳥を描いた70年代マッスル・カーだ。同じく70年代を象徴する胸毛にヒゲのスター、バート・レイノルズがトランザムでうるさいパトカーをやっつけるアクション・コメディ『トランザム7000』(77年)という映画まで

    ポンティアック、タワレコ、MDディスク......2000年代に消えたもの
  • 新聞という過去の遺物を救済するな

    古き良き… ニューヨーク定番のニューススタンドも時代錯誤になる? Spencer Platt/Getty Images まともな頭の持ち主なら、ニュース業界の未来が液晶画面ではなく、紙とインキにあるなどとは思わないだろう。ニュース業界がどこへ向かっているか、少なくとも10年前から誰もが知っている。 なのにどうして、アメリカでは新聞救済が議論されているのか。バラク・オバマ大統領はなぜ、検討するなどと言っているのか。議会はなぜ、病んで老いぼれた新聞を優遇税制措置などの施しで救おうと、公聴会を開いて「新聞再生法案」を検討しているのか。これはまるで、馬車や蒸気機関車や白黒テレビを救う法律を導入するようなものだ。ばかげている。無意味だ。うまくいくわけがない。 実はこうした過剰反応は、ニュース業界の救済とも雇用の保護とも関係ない。民主主義の救済とも無関係だ。新聞を愛する人々は、新聞と民主主義が切っても

    新聞という過去の遺物を救済するな
  • 気候変動版「ウォーターゲート」の衝撃

    データ操作はあったのか 気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の権威にも疑問の声が上がっている(左から2番目はIPCCのパチャウリ議長) Heino Kalis-Reuters 12月7日にデンマークのコペンハーゲンで始まる国連気候変動枠組み条約第15回締約国会議(COP15)を目前に、気候変動の研究者たちの私的な文書が大量流出し、地球温暖化に懐疑的な人々の格好の餌になっている。 流出したのは、研究者たちの個人的な電子メールや文書。英イースト・アングリア大学気候変動研究科のサーバーから盗まれたもので、先週からインターネット上に出回っている。問題はその中に、人間が地球温暖化を招いていることを示すために、研究者たちがデータを操作しているように思える内容があったことだ。 ウォーターゲートならぬ「クライメートゲート」と名づけられたこの騒動は、ますます大きくなっていると、保守系コラムニストのミシ

  • ペイリン「私は母親業で政治を学んだ」

    私はサラ・ペイリン前アラスカ州知事の回顧録をまだ読んでいないし、読むつもりもない。だが、11月14日付けのニューヨーク・タイムズ紙に掲載された文芸批評家カクタニ・ミチコの書評には興味をそそられた。 『ゴーイング・ローグ(ならず者として生きる)』では、財政規律や力強い外交政策には一応触れた程度で、エネルギー自給の重要性に語るときほどの情熱は感じられない。 だが、自分の最大の魅力についてはざっくばらんに、子供を応援する「ホッケー・ママ」の一人という気取らない普通さにあると書いている。中東情勢やイラク戦争、イスラム政治などについてとくに詳しいふりをするわけでもない。「紛争の歴史があることは知っていた」と、彼女は書く。「大半のアメリカ人が知っている程度には」 そしてこう主張する。「母親業より優れた政治修行の場はない」 08年のアメリカ大統領選挙で共和党の大統領候補だったジョン・マケイン上院議員はそ

  • ヒロシマ・ナガサキ五輪? そんなにオバマの足を引っ張りたいのか?

    での「祝賀」報道とは裏腹に、9日に発表された「ノーベル平和賞」受賞のニュースは、アメリカ社会にとって、そしてオバマ大統領にとっても驚きと困惑以外の何物でもありませんでした。慎重に言葉を選んだ9日午前の会見、そして12月の授賞式にノルウェーには行くが、賞金は全額寄付するという「苦渋の落としどころ」その全てがオバマの「窮地」を物語っています。 問題は2つあります。まず医療保険改革でアメリカの保守派と全面対決状態のオバマにとっては、「国際派エリートのきれいごと」を嫌う保守派をこれ以上刺激したくないということがあります。また、アフガンの戦況が思わしくない中、平和賞をもらっておきながら増派というのも国外から非難されますし、逆に平和賞をもらった勢いで宥和策などということでは、やはり国内保守派からは強硬な反対が起きるのです。 オバマの周囲は「先週の五輪が当たりで、今回の平和賞がハズレだったら良かった

  • アメリカでは「科学は真実だ」というのも勇気がいる~ゼイ・マイト・ビー・ジャイアンツの科学教育ソング

    お日様って光り輝く プラズマの塊なんだよ お日様はただのガスなんかじゃない プラズマさ! 電子が自由に飛び回ってるんだ プラズマさ! 物質の第四状態だ 気体じゃない 液体でもない もちろん固体なんかじゃない (Why Does The Sun Shine by They Might Be Giants) ポーグス風パブロックで太陽についての科学的知識を歌うのはゼイ・マイト・ビー・ジャイアンツ。オフビートなサウンドとトボケた歌詞で人気のニューヨークのロックバンドだ。 彼らのニュー・アルバムは『Here Comes Science(科学がやって来た)』。『ABCがやって来た』、『1.2.3.がやって来た』(グラミー賞受賞)に続く、子供向け教育アルバムだ。 「鉄は金属、酸素で錆びるのを見たことあるよね/炭素は石炭だけど、圧力かけるとダイヤモンドになるんだよ」と歌う「元素を紹介しよう」というフォー

    アメリカでは「科学は真実だ」というのも勇気がいる~ゼイ・マイト・ビー・ジャイアンツの科学教育ソング
  • 政権交代でも思考停止の日本メディア | TOKYO EYE | コラム&ブログ | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト

    今週のコラムニスト:レジス・アルノー トイレを修理してもらうために呼んだ業者にこんなことを言われたら、どうだろう。「うーん。ちょっと待ってください。セカンドオピニオンを聞かないと」。さらに悪いことに、医者にこう言われたら?「おかしな病気ですね。医者を呼んできます!」 8月30日の総選挙で民主党部に詰めていたとき、私の頭に浮かんだのはこんなバカげた光景だった。日のジャーナリスト5人に、次々と同じ質問をされたのだ。「政権交代をどう思いますか」 そういう疑問に答えるのが、ジャーナリストの役目ではないのか。そもそもそのために給料をもらっているのでは。その場に居合わせたイギリス人ジャーナリストが私に言った。「よくあんな質問に答えましたね。あんなものはジャーナリズムじゃない。日の記者はただ騒いでいるだけ。今夜、この国が根から変わったことを理解していない」 総選挙を境に日は根底から変わった──

    政権交代でも思考停止の日本メディア | TOKYO EYE | コラム&ブログ | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト
  • イエール大医学生殺人事件の恐ろしさとは?

    ここ数週間、アメリカでは東部の名門イエール大学(コネチカット州ニューヘイブン市)で起きた医学生殺人事件の話題でもちきりです。ベトナム系の医学系大学院生アニー・リーさん(博士課程)が白人男性との結婚式の直前に失踪したのは9月8日のことで、その少し後から全米のメディアは一斉にこの事件を報じ始めました。婚約者が怪しいであるとか、結婚に踏み切れない彼女が「ブルー」になって身を隠したとか、無責任な噂も流れる中、事態は最悪の結果となりました。 9月13日、結婚式が予定されていたちょうどその日に、リーさんの遺体は研究室の地下階で発見されたのです。容疑者は同じ研究室に働く職員の24歳のレイモンド・クラークという男で、様々なDNA鑑定の末に逮捕されたのは17日でした。ちなみに、この事件に関する報道が過熱していたために、9月16日の日の鳩山政権発足は、TVのニュースでは完全に飛ばされてしまっています。 さて

  • 留学生を苦しめる日本政府の勘違い

    今週のコラムニスト:李小牧 21年前の辛い思い出からこのコラムを再開することを許してほしい。 1988年2月、私は広東省深センでデザインの勉強をする私費留学生として日に行くための準備費用7万元(当時のレートで約250万円)を握り締めていた。裁断工、服飾会社の営業マン、ナイトクラブのバックダンサー、モデル派遣会社の経営......。ありとあらゆる仕事を掛け持ちして、やっと手に入れた大金だ。 だがこのカネは飛行機代や留学仲介業者への支払い、日語学校の学費、アパートの敷金礼金であっという間に消える。すぐ朝の9時から夕方まで学校、その後は深夜2時、3時までバイトに追われる暮らしが始まった。あまりに時間がないので、夏休みにたまったデザインの課題72枚を一気に仕上げたこともあった。 当時は日政府の「留学生10万人受け入れ計画」が始まったばかりだったが、金銭的な援助を受けられるのはごく一部の学生だ

    留学生を苦しめる日本政府の勘違い
  • 1