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ブックマーク / obelisk1.hatenablog.com (9)

  • 商店街の崩壊を論じた名著 - オベリスク日録

    商店街はなぜ滅びるのか 社会・政治・経済史から探る再生の道 (光文社新書) 作者: 新雅史出版社/メーカー: 光文社発売日: 2012/05/17メディア: 新書購入: 12人 クリック: 323回この商品を含むブログ (59件) を見るこれは見事な論考だ。著者はまだ三十代で、初めての単著ということであるが、的確な基礎理論を背景に、「商店街」という対象に鋭く切り込んでいるのに感銘を受けた。商店街というものが戦後の産物だというのに、まず目を見開かれる。そして商店街は、保守の基盤のひとつとして、恥をを知らぬ政治的な圧力団体となり、行政から手厚い保護(いわゆる「大店法」)を受けるようになって、いわゆる「既得権益」という存在に成り下がってしまう。 しかし、商店街の規制の及ばない、国道バイパス沿いなどにショッピングモールが出来るようになり、また、商店街の内部がコンビニ化することなどによって、商店街の

    商店街の崩壊を論じた名著 - オベリスク日録
  • 人は「感性の限界」をどうしたらよいのか? - オベリスク日録

    感性の限界――不合理性・不自由性・不条理性 (講談社現代新書) 作者: 高橋昌一郎出版社/メーカー: 講談社発売日: 2012/04/18メディア: 新書購入: 6人 クリック: 67回この商品を含むブログ (31件) を見る人気シリーズの第三弾。書では「感性の限界」ということで、人間の不合理性がディベート形式で論じられる。個人的には目新しいトピックはあまりなかったが、相変らず話題の「料理の仕方」がすばらしい。意欲的な若い人に、書がどれほどの知的刺激を与えるかを思うと、著者には勝手に感謝すらしたくなる。 書でも「科学」がメインだ。人間の「不合理性」を科学が暴くという図になっていると思うが、科学は「合理的」なものと考えられているから、「不合理」を「合理」が暴くということになる。これはパラドックスではないかとも思われるが、実際はそれでよいわけだ。書流に云うと、「自律的システム」と「分析

  • 科学理論の「美しさ」について - オベリスク日録

    科学哲学講義 (ちくま新書) 作者: 森田邦久出版社/メーカー: 筑摩書房発売日: 2012/06/01メディア: 新書購入: 1人 クリック: 25回この商品を含むブログを見る題名通り、科学哲学についてわかりやすくコンパクトにまとめたである。科学哲学というのはこれはこれでとても面白いものだが、個人的には既に熱は冷めた。「科学とは何か」とか、もういいし、みたいな感じである。書にもある通り、うるさいことを云えばいろいろ問題はあるが、「反証可能性」を備えた理論が「科学的」であると、大雑把に感じているというところだ。科学者の感覚とすれば(自分は科学者でも何でもないけれど)、この「反証可能性」というのは、科学者の実感にかなり近いのではないかと思う。とすると、書にもあるとおり、科学理論は永久に「反証」される可能性があるから、永劫不滅に「正しい」という科学理論は存在しないことになるが、実際その通

  • 若松英輔による渾身の井筒俊彦読解 - オベリスク日録

    井筒俊彦―叡知の哲学 作者: 若松英輔出版社/メーカー: 慶應義塾大学出版会発売日: 2011/05/01メディア: 単行購入: 1人 クリック: 20回この商品を含むブログ (13件) を見るじつに深い読書体験になったので、書こうかどうか迷ったのだが、少しだけ。ウェブで連載されていたのは多少目にしていたし、著者が編集している井筒俊彦『読むと書く』の出版には感謝していたのだけれども、中身も見ずに書を買ったのは、ほとんど偶然だった。書は井筒俊彦についてまとまって書かれた初めてのだと思うが、生涯を追って書かれているにもかかわらず、評伝というわけではない。むしろ、二十世紀最大の世界的哲学者を前に、それを悪戦苦闘しながら(というところは実はあまり見せないが、恐らくそうして)読み解いてみせた、一種の哲学書だといってよいと思う。それも、井筒の踏破した全領域を視野に入れてみせようという、気迫が漲

    若松英輔による渾身の井筒俊彦読解 - オベリスク日録
  • グレン・グールドのザルツブルク・リサイタル盤 - オベリスク日録

    グールド・ザルツブルク・リサイタル1959 アーティスト: グールド(グレン)出版社/メーカー: SMJ発売日: 2009/12/02メディア: CD購入: 1人 クリック: 11回この商品を含むブログ (5件) を見るグレン・グールドの、1959年ザルツブルク・リサイタルのライブ録音を聴く(正規盤)。曲目は、スウェーリンク「ファンタジア」、シェーンベルクのop.25、モーツァルトのピアノソナタ第10番K.330、バッハのゴルトベルク変奏曲。 まず、スウェーリンクの古雅な響きがいい。さほどポピュラーな曲ではないが、大バッハ以前としては、充実した曲だといえよう。対位法的な処理もグールドならでは。 このリサイタルの白眉は、シェーンベルクとモーツァルトだ。シェーンベルクは、驚くほど表現主義的で熱い演奏。こんなロマンティックなシェーンベルクは聞いたことがない。op.25は、シェーンベルクのピアノ曲

    グレン・グールドのザルツブルク・リサイタル盤 - オベリスク日録
  • 「哲学=中二病」に罹患した永井均のすごさについて - オベリスク日録

    翔太とのインサイトの夏休み―哲学的諸問題へのいざない (ちくま学芸文庫) 作者: 永井均出版社/メーカー: 筑摩書房発売日: 2007/08/01メディア: 文庫購入: 5人 クリック: 41回この商品を含むブログ (75件) を見る書は、中学生の「翔太」と、哲学する「インサイト」の対話という形で、物の哲学を語ってやろうという小癪な試みです。「考えることの好きな中学生を念頭に置いて」書いたと著者が述べているとおり、哲学史的な予備知識は必要とされませんが、内容は一切妥協なし。著者のがすばらしいことは、このブログでも前に書きましたが、物の哲学者が、こんな面白いを書けるとは。 著者のいちばんオリジナリティのある問題意識は、「自己のかけがえのなさについて」ということだと思われますが、これが追求されている第二章が、やはり書の白眉でしょう。この著者の問題意識ついては、前にも書きました(

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  • 渡辺京二による網野善彦批判その他 - オベリスク日録

    近世の起源―戦国乱世から徳川の平和(パックス・トクガワーナ)へ (洋泉社MC新書) 作者: 渡辺京二出版社/メーカー: 洋泉社発売日: 2008/07メディア: 新書購入: 3人 クリック: 50回この商品を含むブログ (16件) を見る名著。第六章は網野善彦に対する根底的な痛撃であるが、そればかりではない。最近の中世観は「明るい中世」というのが通り相場だが、書を読んでいると、中世の百姓は生きていくために武装し、何かあるとすぐに武力沙汰になるという、血腥い中世がこれでもかと現れてくる。百姓たちも恐らくうんざりしながらも、生きるためにたやすく人を殺したのだった。彼らを率いていたリーダーがまた、戦国時代に侍となっていったのであり、基的に、村同士の戦いが大名同士の戦いにまで、構造的に直結していたのである。秀吉による「刀狩り」は、そのような無秩序な暴力を止めさせるために行われたのであり、そ

  • 岡潔――数学の詩人 - オベリスク日録

    岡潔―数学の詩人 (岩波新書) 作者: 高瀬正仁出版社/メーカー: 岩波書店発売日: 2008/10/21メディア: 新書購入: 2人 クリック: 9回この商品を含むブログ (24件) を見る何の気なしに読み始めたが、一気に通読し、深い感銘を受けた。岡潔の名は一応早くから小林秀雄との対話で知り、有名な『春宵十話』も、学生の頃古書店で購入して読んでいたのだが、そこに大変な宝があることに気付かず、それ以上追求せずに放置してしまっていたのだった。最近、どこで読んだのか失念したが、中沢新一が岡潔の「情緒的知性」に注目しているのは知っていたのだけれども、さすが中沢である。このを読んで、そのことがよくわかった。著者が、岡潔の数学論文集に十代でめぐり合って、数学を志した人であるのもまた素晴しい。かなり突っ込んだ数学的内容にまで筆が及んでいるが、もちろん数学者でもない自分には雰囲気的なことくらいしか判ら

  • 再び柳沼重剛の好著 - オベリスク日録

    語学者の散歩道 (岩波現代文庫) 作者: 柳沼重剛出版社/メーカー: 岩波書店発売日: 2008/06/17メディア: 文庫購入: 1人 クリック: 13回この商品を含むブログ (14件) を見る柳沼重剛の学海余滴を読むのは二冊目で、前著(id:obelisk1:20080529)に劣らず、これも楽しいだった。そもそも西洋古典学自体どこか浮世離れした学問だから、陳腐な言い方ではあるが、現実の埃っぽい風の吹いていない、泰然たる気分の中でしばし時を過せるというものである。 と言うのとちょっと矛盾するかもしれないが、図らずも役に立ってしまう文章もあった。「ギリシア語・ラテン語を学んで日語を考える」という一文なのであるが、外国語を学ぶことが、母国語の文章に対して意識的になるきっかけを作るという例である。それは、著者が英国人の通訳をしているとき、もとの英語の話にはない、「ですから」とか「ですが」

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